たとえばそれは壊れ物であって




ここは、いつも穏やかだな。

・・・・・・・どうしたんです?今になって、いきなり。

いや・・・・・・。

あなたの、悪い癖ね。そう言われたら、気になって仕方がないわ。

・・・・・。

歩きましょう。

・・・・・・ああ。








君が迎えに来てくれたときだ。

わたしが?

ああ・・・私が、こっちに来た時だ。

・・・・・・・・。

今になって思うのだ。
人間の体というものは実に言うことを聞いてくれないものだ・・・、と。

・・・・・そうね。

最後に、君が迎えにきてくれた時だ。
あの時、アスランの横に君が見えた。だからアスランに言いたかった。

・・・・・・・・。

レノアが迎えに来てくれた。だから私はもういい。
お前は生きろ、と。 そう言うつもりだった。

・・・・・。

だが、私の口から出たのは別の言葉だった。






不器用なんですもの。あなたは。

・・・・・・・そうか?

もう。いつも言ってたでしょう。昔から。
あなたはいっつも不器用で、でも真面目で、何もかも一人で背負い込んで・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

本当に、アスランはあなたにそっくり。


・・・・・そうではないだろう。


・・・・あら。どうして?

・・・・・・・・。





君に、似ているんだ。 髪の色、目の色、肌の白さ・・・。
君の生き写しだと、エザリアも言っていた。

・・・・・そうね。 でも、あなた。

・・・・・なんだ。

アスランは、あまり嬉しくなかったみたいよ。 私に似てること。

・・・・・・。

それよりもね。
私が、アスランはあなたに似てるって言うとね。 すごく、嬉しそうだったのよ。
小さいときは、にこって笑って。 大きくなってからも、何処か恥ずかしそうに笑って。

・・・・・・・。

ふふっ。アスランらしいでしょ。




・・・・・・だが。私はアスランに、何もしてやれなかった。
父親の役目は全く果たしていない。


・・・・・・・。


君は知らない。 一度、アスランと議長室で向き合ったことがある。 戦時中だ。

・・・・・・・。

その時のアスランの顔。
絶望したような。裏切られたような。 あの顔は忘れられない。
こっちに来てからも、時々頭をよぎる。

・・・・・・。

あの時。
一瞬、アスランが君に見えた。 君に「裏切られた」と言われた様だった。
・・・・・・恐くなった。
今でもアスランを思い出す時は、あの絶望したような顔が一番最初に浮かぶ。

・・・・・・・・。




私はいつ道を踏み外したのだろうか。










・・・・・・・・あなたは、優しいのね。



・・・・・・優しくなどない。

いいえ。優しすぎるわ。こっちに来てからも、息子のことを考えるなんて。

・・・・・・・考えるのではない。 ただ・・・・後悔しているだけだ。

あの子が、本当にあなたを恨んでいると。 そう思ってるの?

・・・・・・・。

あの子は・・・・・。賢いのよ。私たちに似て。
だからあなたを、一方的に恨むはずないわ。

・・・・・・・・。

知ってる?あの子、小さい頃から、最高評議会の公開中継、見てたのよ。

・・・・・・?

いつもね、近くの奥さん達に、感心されてたの。
さすが、あなたの息子だって。
小さな頃から政治に興味関心を持つなんて、やっぱり違うわねって。

・・・・・・・。

でも。そうじゃなかったの。

・・・・・・・・。

あなたを、見てたのよ。
テレビに近づいて、いつもすっごく嬉しそうに。 にこにこしながら見てたの。
目を輝かせて。 小さいあの子に、政治なんかの内容はどうでもよかったのよ。
ただ、あなたが見たかったのね・・・・。

・・・・・・・。

そのことを、今もアスランが覚えているかどうかはわからないけれど。
あの子は、一方的にあなたを恨んだりしないわ。
たとえあなたが、たくさんの人間を殺すような決断をしたとしても。

・・・・・・・。

わたしも、そうであったように。
あの子も。きっと。






・・・・・・優しいのは、君だろう。 昔から。

あら。そうかしら?
でも、誰かさんのように不器用で真面目なんかじゃないわ。

・・・・・そうかもな。

そうよ。 だから、あの子がこっちに来るまで、二人で気長に待ちましょう。

・・・・・そうだな。 だが、早く来てほしくはないな。

そうね。 何年、何十年と先になればいいのに・・・・・・。

ああ・・・・。

その間に、アスランに言いたいことを、考えておくのよ。

・・・・・・・そうだな・・・・・。

一緒に考えましょう。ゆっくり。

ああ。






でも心配だわ。アスラン、あなたに似てせっかちだから。

・・・・・・私はせっかちではない。

ふふ。そうね。

・・・・・・・・。

ほら、やっぱり。すぐ、すねるのね。

すねてなどいない。

ふふふ。そうね。



時間はまだある。ゆっくり、見つけたい。

そうね。2人で、あの子を待ちましょう。

ああ。






titled by 「爽言」
[初出 2006.10.14]