嗚呼、なんて愚かなあなた パチン、といつもの音がして、流れ星が光を放った。 ミーアの大好きなバレッタ。いつものように髪につけて、その輝きを確認するように顔を少しずらす。そしてもう一度微笑む。 ラクス・クラインとして始めてこのドレスを着たときから行っている一連の動作。それはミーアの中で、ステージに立つ前の一種の決まりごとのようになっていた。 が、鏡に映る笑顔は今までの笑顔とは違っていて、ミーアは少し驚いた。 ほんの少しの罪悪感がそうさせるのか。 ちがう。罪悪感は日に日に小さくなっていった。 (・・・・わかってるよ。) 誰かに弁明するように言った。 誰か、・・・誰に? (わかってるの。) ふっとよぎった碧の瞳に、鏡の中の笑顔は悲しく歪んだ。 ごめんね、と呟いたミーアの声は、鏡に反射して床へ落ちる。 そして、永遠に虚しく佇むだけ。 * 糸が絡まるのをわかっていた。それが自分をじわじわと締め付けることをわかっていた。けれど同時に、その糸が絡まっていく様を喜んで見ている自分がいることにも気がついていた。 だって、どんな形だってよかった。 アスランと繋がりを保つことができたから。 顔を見るだけで心が軽くなった。話しかけてくれた日は、涙が出るくらい嬉しかった。でも彼にとって自分は邪魔で、単なる偽善者でしかないことも痛いくらいにわかっていた。 わかっていた。わかっていた。 ・・・・わかってない、って思ってたでしょ。 でもね。わかってた。わかってたのよ、あなたが思うよりずっと。 わたしが消えても泣いてくれないでしょ。 わたしが泣いても、ほったらかすんでしょ。 ほらね、わかってる。わかってるのよ、全部全部ぜーんぶね。 「ラクス様、お時間です。」 だから、これは賭けなの。 絶対に勝つことのない賭け。 もし、・・・もしわたしと同時にラクス様が現れたら、あなたは間違いなくラクス様のほうへ走るのよね。そうだと言って。わたしの目を見て、はっきり言って。 「行こうか、わたしのラクス・クライン。」 デュランダルが優しく告げる。 そうだ。わたしはラクス・クラインだ。勝てない賭けをする気高い歌姫だ。 「・・・ええ。」 ゆっくりと瞳を開く。 ミーアの目の前に広がるのは、全世界の人間の目に映る舞台。 デュランダルとともに、世界中を味方につけるのだ。 「行きましょう。」 わたしを邪魔だと、偽者だと思ってるなら突き放して。 助けないで。もう二度と手なんて差し伸べないで。 全てを救うことなんでできない。それはあなただって、痛いほどわかっているでしょう? だったら見捨てて。もう顔も見たくないくらいに軽蔑して。突き落として。 変な可能性を抱かせないで。 その綺麗な目で、悲しそうな目でわたしを見ないで。 [初出 2009] 7万Hits企画作品として、長いこと拍手に居座っていた作品の一つ。 期間限定でイメージを募集させていただきました。 頂いたイメージの中からひなよりの独断と偏見で選んだ、cocco「樹海の糸」をイメージしたもの。わたしはアンケートでこのイメージを頂いて、初めてこのアーティストさんとこの曲を知りました。透き通った歌声と、相反する切ない歌詞がとても印象に残っています。ありがとうございました。 Thanx for your massase!! ミーア as cocco「樹海の糸」 |