昨日の夕方から降り始めた粉雪は、今日の朝になって牡丹雪になり、一夜にして村全体を包み込んでしまった。 往来の中で立ち止まり、赤い唐傘を少し上げた。近藤は、灰色の冬の空を見上げる。 しきりに降り注ぐ牡丹雪。誰か「雪の花」と詠ったものがいたことを、ふと思い出す。風に舞うそれは、本当に花のようだった。 ぶるっと身を震わせたのち、思い出したように足を速めた。 雪が降ると、いつも馴染みの村が全く違うものに見えてくるのから不思議だった。 普段歩いている小道も、にぎやかな往来も、自身の家ですら、そして人も。 簡素でいて、静観。無音に降り注ぐ白い雪。しかしそこには寂寥がなく、どこか色めきだって明るい。雪を見る人の顔には、確かに寒さにしかめ面をするものだっている、しかしどこかに笑顔がある。 (子どもの頃は、うきうきしたなぁ。) ふと、昔の自分を思い出した。雪が降った日は、訳もなくわくわくしていた。何かが始まるわけでもないのに、その日の朝は家中を駆け回っていた。そんな自分を、父はすぐに叱った。そうしてすぐに道場へ、昨日より格段に冷たくなった床に足を乗せると、あまりの冷たさに刃物で刺されたような感覚を覚えた。しかし内心では、外に出て何をするかをずっと思案していた。父もわかっていたのだろう、いつもよりその顔は穏やかだった。 角の煎餅屋を曲がる。軽く会釈をしてきた店の娘に笑顔を返し、近藤は道を急いだ。 目的地にたどり着いたはいいが、玄関の戸を叩いても返事がない、とは何事だろう。 (うーん。) 近藤は思案した。当人たちの名前を一しきり叫んでみても変化は訪れないのだから、なおさらである。 今更になって痛切な寒さを感じてきた足元をすり合わせて、再度ぶるっと肩をふるわせた。 (いやしかし、これは。) 果たして、近藤の頭には一つの予想が成り立った。 誰もつけていない足跡を白い上につけて、裏の縁側へと回る。 (・・・・・やっぱり。) 自分の思い描いた情景がそこにあり、近藤は微笑んだ。苦笑とともに吐いた息が、白くゆっくりと漏れた。 縁側に面するガラス戸は締め切られている。しかしそこからは炬燵に意識を奪われ、すやすやと惰眠を貪っている二人が、はっきりと見えたのである。 テレビはついたままの室内で、総悟はすこぶる幸せな表情を浮かべている。その顔から下は全て炬燵に入っており、よだれをたらしているようだ。その横、奥の台所側に座っているミツバはというと、足を炬燵に入れ、そして頭を炬燵の上に乗せたまま、これまた笑顔で幸せそうに微笑んだまま眠っていた。 (こうしてみると、やっぱり姉弟だな。) この姉弟と付き合っているうちにわかったことがある。 二人の性格は、全く正反対だということ。しかしお互いの仲は、珍しいほどに良いこと。お互いの事を語るときは、とても優しい顔になること。そして、寝顔がそっくりなこと。 (・・・・・参ったな。) 近藤は再び白い息を吐いた。そして頭をぽりぽりと掻いた。 この情景を崩さないでこの家に入る方法を、ゆっくりと思案しようと思った。 そして、訳もなく嬉しくなっている自分に驚くとともに、訳もなく楽しかった昔の時を、思い出していた。 炬燵のなか |