近藤さん、こりゃあやばいですね。 その声が、やっぱりというか、なるほどというか、いつもの彼の口調とは違って、震えていた。 「総悟、俺の言うことを聞いて」 くれるか。そう言おうとした近藤は、今度は右斜めから切りかかってくる激しい太刀を受け止めた。 派手な金属音と赤い火花が、暗闇に走る。しかし辺り一面に錯乱している無数の人間の怒号によって、それもすぐに消えた。 いきなり、どす、という鈍い音が背中に走る。 自分の切っている人間の血を浴びる以外に、人間というものの「温かさ」を感じることのできる唯一のそれ。 背中越しの、しっとりとした鼓動。 通常よりはやや早めではあるが、今の近藤にとって沖田の背中は、肌で感じることのできる唯一の「温かさ」だった。 敵の一太刀を受け止めながら、沖田は切れ切れに言う。 「ひどいもんでさァ、」 笑っている。歯軋りをして、刀越しに敵を睨み付けた。しかし、 「すまん。」 背後から聞こえた馴染みの声で、沖田は危うく振り返りそうになってしまった。そしてすぐに、振り返りそうになった自分を悔やんだ。心臓がうるさい、まわりのやつらがうるさい、目の前にいる敵がうるさい。 ・・・・・やっぱり、こうなってしまうのか。 「総悟、行け」 沖田は、小さなため息をつくやいなや、瞬時に体を真下に屈めた。行き場を失った男の刀は、男の体ともども、無様に前のめりになる。 下から眺めた男の腹のあたりを、横一文字に斬った。 (こんなときぐらい、笑わなくていいのに。) 横に走る自分の手の動きを、どこか画面越しの風景のように眺めながら、沖田はふと、そう思った。 近藤が次の太刀を受け止めるころには、沖田は遥か後方の闇に消えていた。 死 |