38.


カタカタカタカタ、とキーボードを叩く音が響く。
右耳につけている端末から聞こえてきたルナマリアの報告。作戦も大詰めに差し掛かってきた。脳が認識するよりも先に左手が動いて別の端末を引っ張り出す、そしてにやりと微笑む。

さあ、派手に暴れろ、そうして舞い続けろ。
王子様とお姫様が現れるまで狂ったようにワルツを踊れ。
BGMは、リヒャルト・ワーグナー『ワルキューレの騎行』が相応しい。


「さあ、ダンスパーティの始まりだ。」


ラスティはエンターキーを押した。
直後、紫の四肢を持った機体が三体、電源を入れる音を大きく響かせた。











「艦長っ!」
通信士が叫ぶ。その声で、一瞬空虚に包まれて動けなかったエターナルのブリッジは活気付いた。

「ドム、ドムの三機が・・・!!」
「どうした!?」
「ドム三機が、格納庫で暴れてます!」

その声を耳にし、バルトフェルドは返事を少し戸惑った。駄々をこねる子どもを形容するかのようなフレーズに場違いさを覚えたのだ。

「暴れてるって・・・どういうことだ?」
「誤作動です!」
「なら急いで修正しろ!」
「それが・・・・さっきからしているんです!でもダメです、できません!」

再びバルトフェルドは虚を突かれた。全てのMSの制御は、そのMSを所持する母艦にて制御が可能である。それは誤作動を起こした際に、あまりにも危険だからだ。そのようにOSが設定してある。

「できないっつーのはどういうことだ?」
「わかりません!なんでだ・・・っさっきから命令してるのに!」

と、そこで唐突にドォン、と足元から突き上げるような衝撃音がブリッジを襲った。
直後に警報が鳴り響く。そして、そんな中で、なぜかディスプレイが開かれた。
クルーの頭上あたり、しかもそれは次々と開かれる。止まらない。そして足元からの衝動も止まらない。ドォン、ドオンと不規則にブリッジを突き上げ続ける。

「止めろ!」
「できません!」
「状況確認しろ!」
「だめです、キーボードが作動しません!」
「なんでだ・・・!どうして作動しない!」

という喧騒が一瞬のうちにブリッジを包み込んだが、それも、今や10ほど開かれた大小のディスプレイに映った青年の顔が一斉に、にやりと笑ったときに、奇妙な静寂に変わった。

『無駄だぜ。』

目だけが確実に笑っていない、その青年が右耳につけたヘッドセットを手で押さえてこちらを見下ろしている。オレンジ色の髪をしたその青年は、尚も笑顔で畳み掛ける。

『今さっき、エターナル艦内のドム三機と艦内全てのOSにウィルスを送り込んだ。もちろん、俺のお手製。だから、下手に操作しようと思ってもぜーんぶ無駄。』
「お前・・・ジュード・キーツか!?」

そう叫ぶバルトフェルドに、画面上の青年は、『さすが砂漠の虎だ。』と満足そうに笑いかける。そして、

『その通り。俺がジュード・キーツだ。でも、あんたには感謝してるぜ?ウィルス耐久検査につかせてくれたおかげで、このオペレーションを思いついたんだから。』

ジュード・キーツは過去赤服を着るほど優れていた。そして、いやだからこそ、バルトフェルドはウィルス耐久検査員として徴収される“一般兵”としてザフトへと送り込んだはずだった。
そう、事態は至極簡単だった。この男を利用するどころか、この男にまんまと利用されたのだ。
ここまで裏をかかれるなど、屈辱以外の何者でもなかった。が、冷静さを欠くほど彼は愚かではなかった。

「ラクスはどこだ!?」

そう。ジュード・キーツはラクスの護衛の一般兵だった。この青年が敵であるとわかった以上、ラクスを敵の目の前に晒しておくことはできない。 が、

『お姫様を向かえに来んのは、王子様って決まってんだ。邪魔しちゃダメだろ?』

そう言って、ウィンクをよこす。
この状況で、まるで「謎かけ」でもして楽しんでいるような、いきいきと輝くその瞳を見てバルトフェルドは悟った。
・・・・完全に舐めれている。その事実と裏をかかれたという二つの事実が相まって、バルトフェルドに爪が食い込むほど右手を握らせた。
が、今度は場違いにも別の声が響く。女性の声だ。


『そういうこと!抵抗しても無駄だから、今すぐ要求を呑みなさい!』


同時に、エターナルブリッジにある一番巨大なディスプレイに、ある機体が躍り出た。
それは、見覚えのある・・・。

『こちらザフト軍ザラ隊所属、ルナマリア・ホーク。エターナル、貴艦が違法に回収・所持していた我が軍所有のMS、ZGMF-X88S、ガイアガンダムは回収させてもらったわよ!』

そう、『しかも勝手に塗装なんてしちゃって・・・・!あたしたちをバカにすんのも大概にしなさいよ!』と続く声は、バルトフェルドの愛機と化していたガイアから発せられた声だった。

『いい?よく聞いて。あなたたちが要求を飲むまで、』

ガッシャンと音が聞こえた気がするほど、それは正確に。

『攻撃させてもらいます。』

エターナルに向かってガイアのビームライフルが向けられた。

「ダコスタっ、ザクでいい、出ろ!」
「はいっ」
「ザクは何機出せる!?」
「五機です!ですが、システムが作動しません!おそらく、ウィルスがっ、」
「作動しないなら、手動でいい!出せ!何がなんでも出すんだ!!」
「ですが、通信できません!」
「走っていけ!一人でも多くのクルーに伝えろ!」

そう言う間にも、ガイアからの攻撃がエターナルブリッジを直撃する。
ギリギリで回避するものの、ドムの誤作動による振動が足枷となり、右舷に深い衝撃を与えた。内部からはドムによる振動が、外部からはガイアからの近距離の攻撃がエターナルを襲う。


『もっと踊れよ。ダンスパーティはまだ終わらない。』


ディスプレイを開いたまま傍観していた青年は、冷酷にもそう告げた。
その顔を目にした瞬間、バルトフェルドの中で言いようのない恐怖が、ざわりと肌の上をなで上げた。尚も、ドムによる振動は止まらず、ブリッジを揺さぶり続けている。









相変わらず振動は止まないが、ラスティは手元を休めない。
そして思考も休めない。キーボードを素早く叩きながら、自分の成したことに落ち度はなかったか、見落とした点はなかったかと思考を走らせている。

エターナル艦内に侵入したと思われていた三人。
しかし、実際侵入したのは“二人”だけだった。
一般兵ジュード・キーツとして、つまりエターナルのクルーとして活動していたラスティが、ルナマリアともう一人を侵入させ、あったかも三人組のように振る舞っただけのこと。
・・・そしてなぜ、自分達が派手に動き、“監視カメラに録画されるような”無用心を犯したか。
それは、ラクス・クラインに護衛の一般兵をつかせるため。いや、もっと言えば自分を護衛につかせるように、バルトフェルドに“命令させるため”だった。

ラスティは、通路で一般兵を無力化した後の光景を思い描く。
あの後、パイロット控え室に侵入したラスティは、中にいたヒルダ・ハーケーンを無力化。そして直後、ルナマリアは無力化されたヒルダと自分の衣装をそっくりそのまま入れ替えた。ラスティも同様に、通路で無力化した一般兵の服装を着用し、逆に侵入者である自分のパイロットスーツを一般兵に着せる。もちろん、二人にヘルメットをすることも忘れない。
そして、残りの一人・・・つまり「三人目」は、そのまま気絶したふりをした。その間、五分にも満たない。

そうしてラスティとルナマリアは何気ない顔で、ドムのパイロットであるヘルベルトとマーズを出迎える。
「侵入者を三人捕まえた」・・・・そう言って。
彼らは当然信用した。彼ら二人が目にしたのは、エターナルに以前からいる一般兵であるジュード・キーツ本人と、数分前と同じ格好をしたヒルダ・ハーケンの顔をした人物だったのだから。

その直後、ラクス・クラインとバルトフェルドからの通信が入る。
ヒルダに変装したルナマリアが、本物のヘルベルト、マーズともに通信に出る。
当然、ラクスたちは気づかない。ヘルベルトとマーズの二人は、紛れもない“本人”だからだ。
そして何事もなく通信が終わった直後、ルナマリアは隠し持っていた催涙ガスでヘルベルトとマーズを無力化。二人は今現在も、エターナルのどこかの一室で呑気に漂っているだろう。しかし、彼らももう命はない。

その間、ラスティはIDをジュード・キーツのものに入れ替え、何気ない顔でエターナルブリッジに合流する。そして、ラクスとともにパイロット控え室へ向かい・・・・エターナルのクルーをちょっとからかって、今は、ジャスティスに設定されたパイロット認識装置を崩しにかかっているところだった。

先ほど述べたように、ラスティとルナマリア、あともう一人・・・「三人目」は、それぞれ別々の任務があった。
ルナマリアは、ガイアを掌握すること。
ラスティは、ジャスティスを掌握すること。
そして、「三人目」は・・・・ファイナル・フェイズを実行すること。

「三人目」の顔を思い出して苦笑したラスティは、あいつならできる、と即座に思った。
そう、侵入したと思われていた三人のうち、気絶して牢屋にぶち込まれたふりをした男。
ラスティは、その男に解除コードを与え、それ以外の指示はしていない。
なぜか?簡単だ。「三人目」は、エターナルの構造を誰よりも“よく知っていた”からだ。

ジャスティスのOSの個別認識システムの破壊、再構築も終盤に差し掛かる。
ラスティに残された任務は、今や「三人目」が到着するのを待つだけとなった。
・・・・と、ラスティの視界の右端で何かが動いた。

「遅いじゃねーか。」

手元のキーボードを叩きながらラスティがそう言う。
が、影は止まったままだ。

「全く・・・・待ちくたびれたぜ。」

とラスティが促すと同時に、ガチャリと音がして黒塗りの物体が向けられる。
しかしラスティは平然と手元の端末から目を離さずにいた。 が、トリガーにかけられた指がぐっと力をこめたのをちらりと見ると、ようやく作業を止めた。 顔を上げ、ラスティは男を正面から見据えた。「ようやく、」



「王子様のお出ましか。」



その視線の先。そこには、銃口を向けるキラ・ヤマトの姿があった。






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