十番隊隊士、原田右之助を語る




え?ああ、原田隊長のこと。わかったよ、んじゃぁちょっとだけ。

うちの隊長は、とにかくすんごい顔だぞ。もうね、まじでコワモテ。そのうえ巨体。しかも、ドスのきいたダミ声。極め付けに、ハゲ・・・じゃないや、スキンヘッド。
だからあのコワモテで睨まれてダミ声で職務質問なんてされたら最後、何か後ろめたいことがある人なら、すぐに白状すると思うぞ。実際、万引きのガキから若い引ったくり、詐欺まがいのジジイまで、隊長がちょっと目つきを悪くするだけで、ぽろっと自供するから。いや本当だって。あ、たしか・・・柔術もめちゃめちゃ強いんじゃないかな。この前、体当たりしてきた銀行強盗を、一発背負い投げしましたもん。とにかく、まぁそんな人だ。

え?他にも面白いエピソードはないかって?んー、・・・ああ、そうそう。一ヶ月前だ。一度、休暇中にバッタリ隊長と鉢合わせちゃったことがあったなぁ・・・・。
(隊士、顔が蒼白になる。)
そン時は、俺も隊長も私服だったけど。いきなり出くわして、とにかくびっくりしたな。で、ちょうど昼時だったから、そこらへんの店で適当に食べようって話になって。もちろん、隊長のおごり。へへ、ここらへんは平隊士のいいところよ、お前も覚えとけ。
で、いい店がないかなーってかんじで、適当に二人でふらふら歩いてて。そしたら突然、どこぞの組に属してそうな、明らかにそれっぽい男がすごい形相で俺たちに近づいてきたんだ。そりゃあもう怖かった・・・・!!もしかしたら攘夷志士じゃないかって思って、俺はゆっくりと刀の柄に手をあてた。まさか休暇中に血を見るのか・・・?って、本気で覚悟した。そして隊長の指示を待った。そうだ、基本は隊長の指示を待つ。これは平の隊士必須事項だからな。男は、ゆっくりと、でも確実に俺達との距離を縮めてきやがる。俺は、その男の鋭い目つきと視線を交えた瞬間、斬り合いを免れることはできない。そう確信した。息を飲んで鯉口を切った。そこで、隊長からストップがかかった。そうこうしてる間にも男は迫ってくる。だけど隊長は俺の鯉口を切った手を押さえたまま。一体どうする気だ・・・とうとう狂ったか。それともなんらかの作戦があるのか。そう思った瞬間、あと数歩まで迫ったやくざ風の男は、いきなり立ち止まるや否や、往来のど真ん中で、俺達に向かって深々とお辞儀をしたんだ。 っていうか、詳しく言えば、隊長に向かって挨拶したんだ。
「うっす!!!」
「おう。」
で、何事もなく、そのやくざ風な男は去ってって。後で隊長に聞いたら、「あんなやつは知らん。」って言って、ラーメンをすすってた。どことなく不機嫌そうな顔で。 不思議に思って、次の日沖田さんに聞いたら、・・・ああ、沖田さんって言うのは、一番隊の隊長。後で一番隊の連中に聞いてみな。で、その沖田さんは別段珍しくはなさそうに、「ああ・・・原田ねェ。アイツ、よく裏の家業のやつらに間違われるからなァ。そんな顔だろィ?」だって。 ・・・・だからつまり、その日もヤーさんに、どっかの組長と間違えられたっていう話な。でも、俺ほんとに怖かっただぞ、あん時!
(隊士、苦笑する。大きなため息を一つ吐いたのち、話を続ける。)
後は・・・そうだな、何にでも首をつっこみたがる人だな。いい意味で好奇心旺盛、悪い意味で首つっこみたがり。
俺達真撰組っていうのは、腐っても幕臣だ。だから、とーきどき、幕府のお偉いさんとか、有名人とかが屯所に来ることもある。あ、前はえいりあんはんたーの星海坊主さんが来たんだぜ。俺も見たぞ、へへへ。で、そういったときは決まって原田隊長は覗きに行く。・・・・なんっつーか、野次馬精神が旺盛なんだよ、あんな顔してるくせに。ほんと傍迷惑だよな、あんな顔してるくせに。は?見たことない。まあそのうちわかるだろ、やくざみたいな顔の男だから。
でも、意外に涙もろいんだよあの人。意外だろ。
だって俺見たから。隊長が映画見て、男泣きしてるのを。・・・・あ、そう言えばその時、副長もいっしょになって泣いてたっけか。
とにかく、意外に熱いんだろ。うちの隊長も、副長も。

あ、お前もう行くのか。
おい、この話は原田隊長には内緒っつぅことで。よろしく頼むぞ、新人!






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原田がとてつもなく好きです。やのつく家業の人と間違われるのはご愛嬌。
ちなみに、実際に間違われたのは私の高校時代の剣道部顧問かつ生徒指導の先生@とっつぁん似。
実際目の当たりにした私の心境にもなってみてください、先生よ。