一番隊隊士、沖田総悟を語る




え?沖田って、沖田隊長ですか?一番隊の?・・・・っていうか君、見ない顔ですね。所属は何番隊ですか?
(隊士、いきなり胸倉を掴んでくる。厳しい目つきでこちらを睨む。)
は?十番隊のやつから聞いた?一番隊の沖田隊長はどこかって・・・・ははあ、なるほど。君、新入りだな。これで合点がいった。いやごめん、数日前、間者がちょうど見つかって首斬られたばっかりだから。君も間者か何かの類かと思って。ああ驚いた。ごめんごめん。え?一回、みなさんの前で自己紹介をしたじゃないかって?ああ、新入り顔合わせのとき?・・・君が?・・・・え、そうだったかな。ちょっと思い出せないな・・・。
(隊士、少し驚く。記憶を辿っているようだ。が、すぐに真顔に戻る。)
で、君は沖田隊長のことを知りたいんですよね。
ははは、じゃあ一言。沖田隊長はすごくいいお人です。
おや、意外な顔してますね。まぁ、それが普通の反応ですけれど。
「ドS王子」?はははは、あなた、よく知ってますね。十番隊のやつらから聞いたんですか?そうです、君の言うとおり、うちの隊長はそう呼ばれています。十番隊のみと言わず、他の隊のやつらにも、うちの隊長のことを「意味不明」だとか「ドS」だとか「なに考えてるかわからん」とか、言われているようですし、挙句の果てには「サボりすぎて、いつも副長に怒鳴られている」ということまで言われている体たらくでして。そして、君のような、どこに配属されるか待っている新入隊士達は、ここでの生活と仕事に慣れてくると大抵言い出すんですよ、「沖田さんの一番隊にだけは配属されたくない」って。君もしばらくたったら言い出すかもしれないね。
でも、実際、そうでもないんです。うちの隊長は。
まぁ確かにいつも寝てるような人ですけど・・・。そこは困っているんですが。
(隊士、苦笑する。)
沖田隊長。あの人は、どうやら自分の中での基準を持っていて、それを越す悪事に対しては、ひどい軽蔑の念を持ってるみたいです。一つ、面白い話を聞かせてあげましょう。その沖田隊長が、そう言った悪事をどうにかしようとするときは、決まって真撰組の隊服を着ていないとき。つまり十中八九休暇中で、しかも単独で挑みにかかります。 ははは、ほら、またそんな意外な顔をして・・・・確かに、あなたにとっては不思議でしょうがないんでしょう。私も最初はそうでした。
そんな沖田隊長に向かって、副長はよく言います。

「勝手に動くな」

と。・・・・ですが、いいえ、副長は正しい。もちろんその通りです、でもね。
沖田隊長は、私達を巻き込みたくないんじゃないか、と、あるときを境に、思うようになったんです。真撰組きっての精鋭部隊と言われる私達一番隊の隊士を引き連れて乗り込めば、なるほどすぐに事は解決するでしょう。
しかし沖田隊長は、あえて、そうしない。一人で行ってしまう。
え?「それは一人でやりたいだけだ」って?はは、確かにそうですね。でも、一人でやりたいということは、裏を返せば部下への気遣いや心配につながるのではないでしょうか。それが意識的か、無意識的かなんて関係ありません。だって時として、意識的な優しさよりも、無意識的なやさしさのほうが優しいことだって在りうる。違いますか?そう考えてみると、沖田隊長はすごくいい人なんです。少なくとも私にとっては。
でも、やっぱり私たち部下からしたら、・・・もっと頼ってほしい。それが本音です。いつも一人で片付けようとするんですから、私達の隊長は。でも、それは無茶な願いってもんですね。だって、沖田隊長が本当の意味で頼りにしてるのは、今も昔もただ一人、うちの局長だけなんだから。沖田隊長の弱み、なんてものには、私たち平の隊士は永遠にお目にかかれないでしょう。
・・・・・あ。でも、だからでしょうか。
一人で突っ走る、そういう沖田隊長の性格がわかっているからこそ、副長は「勝手に動くな」って、いつも言うのでしょうか。







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