02.


一ヶ月前に新しく組むことになった相棒は、アスラン・ザラと名乗った。

「なあアスラン、今夜空いてる?」

仕事を一通り終えた頃、もう夜は更けていた。
車のサイドガラスに映っては後方に流れていくネオンの光をぼんやりと眺めながら、ラスティ・マッケンジーは左の運転席に声をかけた。

「あー・・・・悪い。今夜は先約がある。」

またか。ラスティは、気のない返事をした相棒に心の中でため息をついた。
アスランと組むようになって一ヶ月。仕事は順調にこなしていたが仕事以外で顔を合わせたことがない。毎晩毎晩、仕事が終わるとすぐにどこかに消える。当初は職場の誰もが「女のところに行っているんだろう」と言っていたが、先日ラスティが尋ねると、「いない。」と即答された。意外な返事に、今度はラスティが面食らった。
・・・・じゃあ、コイツが毎晩早く帰る理由は何なんだろう。介護が必要な家族がいるのか・・・まさかな。事件の調査か?いや、それなら俺にも絶対に声をかけるはず。隠し子のおもり。・・・・これはアリかも。んじゃあ、誰が昼間おもりしてるんだっていう話に、

「納得がいかない。」

突然耳に飛び込んできた声に、ラスティはぎょっとして隣を見た。
しばらく無言で通していたアスランは、ハンドルを握ったままちらりとこちらに視線をよこした。

「・・・・って顔してるぞ。」
「あ、いや、別にいいんだ。」
「嘘つくなよ。全然よくないって顔してるぞ、ラスティ」

君はすぐ顔に出るからな。そう続けて苦笑したアスランの顔をじろりと睨み、ラスティはふて腐れて前に向き直った。ニューヨークに林立する高層ビル群の中でも一際目立つように堂々と立っているエンパイアステートビルディング。視界の斜め上に納めながら思う。あそこにスパイダーマンが上ってたんだよな、映画で。ああ、一回俺も立ってみたい。もちろん彼並の能力がなけりゃお断りだけど。そこまで考えると、強烈な眠気が襲ってきた。大きな伸びをする。

「お前さ、毎晩毎晩何してんの?なんか用事でもあんのか?」
「んー・・・ちょっとな。」
「たまには飲もうぜ。お前、自分のことちっとも喋らないし。」
「じゃあ聞くが、君のほうこそいつも何をしてるんだ?」
「え?」
「今日の朝だって、裁判所に行くって言ってたのに遅れてきた。」

ああ、と間の抜けた返事をしたラスティは、前を向いたまま笑って、「それは、お前が時間にきっちりしすぎなの。」と言った。

「気楽にいこーぜ。あんまキリキリしてると、胃を壊すって言うだろ?」
「そんなこと言うか?」
「ついでにハゲるとも言いますな。」
「・・・・降りろ。」
「ごめんなさい嘘です、ハイ。」

そうこう言ううちに、車は署の駐車場に止まった。
車を降りたラスティは軽く手を上げて、「んじゃ、また明日な。」と会釈をした。

「・・・・ああ。」

かすかに微笑んだアスランは車を適当に方向転換させると、夜の闇に消えていった。
ラスティは行き場のなくした手をぷらりとさせ、今度は頭の後ろで組んだ。


「毎晩毎晩遅くまで・・・・・あいつ、何してんだ?」


呟いた言葉は、虚しく夜の外気に吸い込まれる。
このまま大人しく帰るのも癪だ、そう思うと同時にラスティはスーツのポケットに右手を突っ込む。
この世の中には、かくも便利な携帯電話というものがある。
目ぼしい相手を思いかべると、ラスティはケータイの短縮ダイアルを押した。