1.


ここは、ミネルバの医務室の前。
医務室は臨時手術室と直結しているが、手術室は普段めったなことがない限り閉じられている。数日前、収容された連合のパイロット・・・ステラは医務室にいる。手術が終わった患者も医務室に収容される。
つまり手術が終わればルナも、アスランさんも医務室に置かれるっていうことだけど。

空気・・・重いよな。 シンはふと、そう思った。
医務室の前。ここにはシンだけでなく、メイリンとヨウラン、ヴィーノもいる。
俺はステラを、メイリンはルナを、そしてヨウランとヴィーノはフリーダムが発射寸前の艦首砲を打ったことで巻き添えになった、整備士の人たち・・・特に2人をよく世話してた、エイブス主任を待ってる。
そして・・・・アスランさん。
アスランさんが打たれるなんて・・・。 ここにいる誰もがそう思った。絶対打たれるわけないと、思ってた。
俺がここに来たのも、ステラが心配で・・・・。

確かにアスランさんが打たれた。
それは・・・・俺も自分の目で見た。信じられなかったけど、アスランさんの心配よりも、アスランさんをあいつらが・・・あの、フリーダムとアークエンジェルが打った事実に、怒り、憤りの気持ちが溢れてくるばっかりで、わけわかんなくなってた。 なんにも考えられなかった。頭が真っ白になったんだ・・・いや、真っ赤になったんだ。そう、怒り。真っ赤な、どす黒い、怒りだ。
そう、マユや父さん、母さんが殺されたとき。ハイネが、殺されたとき。
あのとき感じた怒りだ。

そして無性にステラが心配になって、気づいたら医務室の前に来てて。

来てみたら。なんだよこれ。アスランさんが手術中ってどういうことだよ。意識不明?なんだよ、それ。
あのひとのことだから、また困ったように笑って「ごめんな、シン」とかなんとかいって、自分の部屋から出てくるって思ってた。で、俺もあのひとに、あんた全然だめじゃんとかなんとか言って。
いっつも通りの日々が、来るって思ってたのに。
なんなんだよ、これは。どういうことだよ。

「お姉ちゃん・・・アスランさんも・・・大丈夫だよね? 2人とも・・・絶対絶対大丈夫だよね??」
メイリンが、長い沈黙を破って紡ぎ出した言葉は・・・・ここにいる4人全員が思っていたことだった。
「大丈夫だよ、特に・・・アスランさんとか死ぬわけ、」

「・・・そんなの簡単に言うなよな!」

2人とも気が立ってたんだと思う。普段はなんて事ないことなのに、2人は言い争いになった。
「なんだよ、じゃあヨウランおまえ!おまえ死ぬって言うのかよ!!エイブス主任も、アスランさんも!!」
「そういう意味じゃねえよ!!!ただ、気休めの慰めなんてすんなって言ってるんだよ!!そんなのなんにもなんねえ・・・・」

「やめてよ!!2人とも!!いい加減にしてよ・・・っく、う・・」

ヨウランとヴィーノのけんかを、メイリンが止めた。
泣いてた。
・・・・いままでずっと我慢してきたんだろう。
シンには、メイリンの悲しみがよくわかった。
ルナは、俺たちの中でも、みんなのお姉さんって感じで・・・・。特にホントの家族で、1人しかいない姉さんだもんな。その家族を失うことは・・・辛すぎる。
肉親を失うこと。それは、失ったことがある者にしかわからない深い、深い悲しみを、残された者に与える。その悲しみを知っているから・・・俺は。


「そんな事・・・・死ぬ、なんて、2人とも・・・、そんな、簡単に・・・言わない・・・、・・でよ・・・」


ダメだ。耐えらんないよ。


「ごめん、メイリン、泣くなよ・・・」
「俺らが悪かったから・・・・って、シン!どこいくんだよ?」
ヨウランたちがメイリンを慰める声を聞きながら、その場を後にした。


甲板で1人になって、海を見てたら・・・また、怒りがこみ上げてきた。
なんでアスランさんが打たれないといけないんだよ。
フリーダムもアークエンジェルも前の大戦のとき、あのひとの仲間だったんだろ。簡単に打てるのかよ。人間じゃねえよ、そんなの。アスランさんはとまどって打てなかったのに。帰れって、必死に言ってたのに。なんだよ。 そんな仲間を打てるのかよ!!!

いや、打てるんだ。フリーダムのパイロットも、アスハも・・・・!!!俺の家族も、アスランさんも打ったんだ。 オーブの国民だった家族も、仲間だった、しかもアスハは護衛してた人間を簡単に打てる、殺せるような、そんなやつらなんだ。 あんなの英雄でもなんでもない。ただの殺戮者だ!! 世界の人にとっては英雄かもしんないけど、俺にとっては、家族を、仲間を殺した殺戮者なんだ!!!

『お姉ちゃん・・・アスランさんも・・・大丈夫だよね? 2人とも・・・絶対絶対大丈夫だよね??』

メイリンの顔が浮かぶ。

・・・・どうしよう。このままだと、俺の大事な人、みんな殺されてしまう。死んでしまう。

・・・・ステラも・・・・!? ステラも、このままだと・・・。

・・・アスランさんも、ハイネみたいに死んでしまうんだろうか。

人が、簡単に死ぬ。
当たり前が、当たり前じゃなくなる。
それが戦争だとわかっているけど・・・。
・・・・・・・・そんなこと、させてたまるか。
ステラは、俺が助ける!


迷いなんて、そんなものなかった。






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