10. 「シン、レイ」 ミネルバの食堂で、びくびくしながら食事を取っていたシンは、危うくフォークに刺さっていたおいしそうなハンバーグを落とすところだった。 ・・・・きたぁ・・・・・。 そう。何故シンがびくびくしながら食事を取っていたかというと、声をかけた人物が艦長・・・タリア・グラディスだったからだ。 先日、自分はステラを地球軍に帰して・・・・軍規違反を侵した。 しかし次の日艦長に呼び出されて言われた一言は、「不問に処す」だった。 ひとまず銃殺刑だけは免れたようで、ほっとしたが。 だが、シンは絶対艦長から何かしらおとがめがあると確信していた。 上層部の判断が「不問に処す」でも、この艦長は・・・・はっきり言って絶対何か処分を下すだろう。 この数日間の艦長のまわりに漂っているオーラがそう言っていた。 今度こそ、なんか・・・自分はすっごい罰を食らうだろう。 「食事抜き」か「トイレ掃除」か・・・いや、もっと悪く行くと「ミネルバをクビに」とか、「緑に降格」とか・・・!! 「ちょっと話があるわ。私に付いて艦長室へ来なさい」 いつになく真剣な表情でタリアはそう言い、すぐに足を艦長室へ向けた。 やっぱり・・・! 艦長の後を、心臓が縮こまる気持ちでレイと共に歩く。 レイの方をちらっと見たが、いつものように前を向いたまま表情一つ崩していなかった。 シンには艦長室へ続く廊下が、永遠に続くかに思えた。 艦長室の扉のロックが解除され、2人が入ったところで艦長は口を開いた。 「2人に重要な知らせがあるわ」 やっぱり・・・!!! 来るぞ来るぞ来たぞ来たぞ・・・・!!! もういっそ何にでもなれ! 降格でも移動でも、銃殺刑じゃないだけマシだ! そうだ、それに俺は間違ったことなんかしていない。 なんで俺がこんなにドキドキしなきゃならないんだよ。 そうだよ。 何も悪いことして・・・ないんだから、大丈夫だ。 でも・・・やっぱり軍規違反は・・・ダメ、だよな。 もういい!!何でもいい!!! そう決意してシンは艦長室のデスクに座った艦長の顔を正面から見た。 しかし、シンの目に映った艦長の顔は、怒りを含んだものではなく・・・・とても微妙な、混乱しているような顔だった。 そして艦長は何も言わず目の前のボタンを押した。 ブゥンと音がして2人の目の前に現れたのは・・・ 『シン・アスカ、レイ・ザ・バレル』 そう言って現れたのは、真面目、そして厳格な容姿に、上層部の中でも最高評議会に出席することを許された者だけが着ることのできる紫色の服を着用している男。 それは現在のザフトのトップに立つ男、シュライバー国防委員長の姿・・・ではなく、ホログラムだった。 シンはびっくりして、しばし口を開けてぽかんとしていた。 なんで国防委員長が・・・・?? 国防委員長といえば俺ら赤と言えど、アカデミーの卒業式の際に遠くから見れたらいいほうで、テレビで見ることはあってもこうやって直接お目にかかることなど一生のうちに一回あればいいほうだ。まあ、フェイスになれば別だけど。 ・・・・その国防委員長が俺とレイにに何の用なんだ・・・・?? 横にいたレイがシンの横腹をこづいたので、シンは慌てて敬礼をする。 『これから2人に重大な任務を命ずる』 「「はっ」」 『2人は只今からミネルバを発て』 シンは体から血の気が失せていくような気がした。 どうやら、自分の嫌な予感は当たってしまったようだ。 レイと俺はミネルバクビ決定。次は緑に降格命令が下される・・・!!しかも国防委員長が直接命令って・・・どんだけ悪いんだよ・・・!!しかし2度目の嫌な予感は、外れた。 それも・・・よいほうへ。 『ジブラルタルからプラントへ一端帰還し、ディセンベル市のザフト本部へ来るように。2人には議長からの勅令で新しい機体を受領する』 「・・・・え?それいったいどういう・・・」 シンには全く理解できなかった。 罰を与えられると思っていたのに、プラントへ帰還命令?? しかも俺とレイだけ・・・新しい機体??? 『それと同時に2人には2日間の休暇を与えよ、とのことだ』 「は・・・?」 しかも休暇・・・・???? 『以上だ。各自全力を尽くせ』 「はっ」「はぁ・・・・」 全く理解できない。なんで。降格は??ミネルバクビは??? 「・・・・と、言う事よ。すぐに荷物をまとめなさい」 そういった艦長の顔はまだ混乱が消え失せていないようだったが、すこぶる優しい顔でもあった。 「・・・え、でも、俺のインパルスと、レイのザクは?」 『パイロットなら心配ない。お前達がミネルバを離れたのち、代わりの赤がそちらに4人派遣される。 4人はインパルス専用の訓練も受けている。インパルスはその中の1人が操縦することになる。ザクは他のパイロットに廻す。・・・これ以上は私の口からは言えん』 「は、ぁ・・・・」 じゃあインパルスとはお別れか、なんだか寂しい・・・・じゃなくて!なんでわざわざ故障もしてないのに俺たちに新しい機体を受領・・・!?わけがわからない!! 「レイとシンはもう自室に戻って帰還の準備をしなさい。シャトルはもう用意してあるそうよ」 グラディス艦長はまだ顔から混乱の色が抜けないものの、先ほどよりもいくぶんか優しい表情でそう言った。 「はっ」「はぁ・・・・」 2人は敬礼して、(シンは混乱して)艦長室を後にした。 長い廊下をレイの隣で歩きながら、シンは未だに状況をつかめず混乱していた。 なんで。もう何が何だかわけがわからない。 とりあえず降格とクビはないようだけど、未だに理解できない。 褒められるようなことはした覚えはない(怒られることならしたけどさ)のに、なんで新しい機体くれんの?? 故障してないのに? 「な、あのさ、レイ」 「なんだ」 「なんでその・・・俺たち、新しい機体を・・・」 「お前と俺の実力が認められたのだろう。議長や、上層部の人たちに」 「ホントにそれだけで?」 シンは、なぜか違和感を感じていたのだ。 何故自分たちは軍規違反を起こしたのに、罰一つないのか。 何故自分たちの機体は故障一つしていないのに、新しい機体を受領されるのか。 「ああ。議長は優しいお方だと言っただろう」 「そ、それはそうだと思うよ!俺だって!」 「なら、議長の命令に従うだけだ」 「そう・・かな」 「そうだ。早く部屋に戻って帰還の準備をするぞ」 レイはそう言って微笑んだ。その笑顔を見て、シンは思った。 そうだな。レイがそう言うならそうなんだろう。 おそらくレイも良くわかってないんだろうけど、降格されるわけでも何でもないんだから、まあいっか。 そう考えて、シンはレイに返事をした。久々にうれしそうな声だった。 「早くするぞ」 「わかってるって。あ、レイ!休暇の間、マスネおばさんとこ行けるな!」 「・・・そうだな。帰ると喜ぶだろう」 「だよな!特にレイはお気に入りだからなぁ」 「そんなことはない。お前も俺も大切にしてくれている」 「そうだけど!だから、・・・・」 この時シンは、もう先ほどの妙な違和感を感じてはいなかった。 「なぜ、ですか?」 『・・・・・』 「シンとレイに新しい機体を与え、しかも」 そこでタリアは一息つく。 国防委員長は黙ったままだ。 先ほどあったレイとシンへの機体受領の話も全く理解できないというのに、また国防委員長から全く意味のわからない指令が下されたのだ。 「ルナマリア・ホークとアスラン・ザラのミネルバ解任、それに加えてミネルバのカーペンタリアへの渡航って・・・」 『代わりの赤が来たらすぐにジブラルタルを出ろ』 「質問に答えてください」 『・・・・私の口からは言えんと言ったはずだ』 「しかし、カーペンタリアへの渡航はまだいいとして・・・、何故2人を解任するのですか?」 タリアは憤りの感情を必死に押さえて国防委員長に詰め寄った。 確かに、2人は怪我を負っている。アスランに関してはまだ意識も戻っていない。しかし通常ならば代わりのパイロットが送られ、本人達の怪我が完治次第、元の現場に復帰する。 なのに、なぜ・・・? 「2人は確かに治療が必要ですが・・・解任までせずとも、」 『2人はこれからのミネルバの任務に支障をきたす』 国防委員長の言葉にタリアは絶句した。 「2人はジブラルタルで治療し、完治すればまたミネルバに所属すれば・・・」 『2人の完治を待つ時間がない。今はこれしか言えん』 「どういうこと、ですか・・・?」 『それから2人をミネルバ所属から外すと言っただけで、ルナマリア・ホークとアスラン・ザラには別の任務がすでに出ている』 その言葉は、またもタリアを驚かせた。 「別の・・・任務?」 『そうだ。2人に伝えて欲しい』 「・・・・何でしょうか」 『2人も傷が完治しだいアプリリウスの最高評議会へ出頭するように』 「・・・は!?最高評議会・・・!?」 『そうだ。議長からの勅令だ』 「なぜです!?一体なにを、」 『以上だ。全力をつくせ、グラディス』 「待ってください!」 『ザフトの為に』 ぐっと唇をかんだところで、国防委員長のホログラムはタリアの目の前から、消えた。 何を、考えているのよ・・・ギルバート・・・。 また彼を使って何か・・・・何かしようというの!? それに、あの国防委員長の様子も気になる。 何かを隠している、焦ったようなあの表情。 本当にただのカーペンタリアへの渡航ならば。 アスランは無理でもルナマリアの治療くらいなら待てるはず。 確かに、進路の間に南アフリカ統一連合という地球連合に属する国はある。 しかしあの国も赤道上に位置し、ユニウスセブン落下で大きな痛手を負ったと聞く。 それにここジブラルタルを含む親プラントのアフリカ共同体の圧力があれば、いくら最新鋭艦のミネルバと言えど、南アフリカ連合がたかが戦艦一体を叩く為にわざわざインド洋にでてくるとは考えにくい。 地球軍の指令がよっぽどのバカでない限り、アフリカ共同体との国境線争いに手をまわすだろう。 おそらくは戦闘とおぼしき出来事はおこらないと言っていい。 それはいいのだ。そうではなく、何故またカーペンタリアへ戻らねばならないのか。 何故またオーブから脱出してきた時と同様に、インド洋ルートを使ってカーペンタリアへ渡航しなければならないのか。 まるで2度手間ではないか。 そこまでしてカーペンタリアへ行く何かがある、というの・・・? そう考えていると、手元の端末が音を発てた。手元のボタンを押す。 『艦長、病院から連絡です』 「何?」 『・・・・・』 「そう・・・。よかったわ。すぐに私もそちらへ向かうと言ってちょうだい」 『はっ』 報告を聴き、タリアは微笑むと同時に、気が重くなった。 2人に、ミネルバがジブラルタルを発つ前に任務を伝えないとね・・・。 もう何度ついたかもわからないため息をついた。 まあ、唯一の救いは、南アフリカ統一連合を超えれば、オーブ脱出の折のような戦闘はおそらくないだろうという事だ。 その点自分がいらぬ心配を今してどうなる。 今神経を無駄にすり減らす訳にはいかないのだ。 「全く、これから忙しくなりそうね」 そうつぶやいて、タリアは天井を見つめ、病院へ向かうために立ち上がった。 BACK TOP NEXT |