11.


『なお、先日行われましたラクス様の演説によりますと、あのアスラ・・・』
ピッ
『なんでオーブがこんな裏切りを働くのか・・・・』
ピッ
『・・・さない!早くオーブを打つしかないんだ!!』
ピッ
『フリーダム、はい、そうです。この蒼い機体ですね・・・』
ピッ
どこのチャンネルも連日オーブの裏切り、核の使用、ユニウス条約違反のバッシングばかり。
そして・・・アスラン・ザラが打たれた、とも。

少年は目の前の端末を閉じ、窓の外に広がる広大な空を眺めた。いや少年・・・という表現は適切ではないかもしれない。なぜなら彼は、今まさに少年から青年へと進む過渡期にいるのだ。 しかし澄んだその瞳は、やはり少年という表現が相応しい。水のように透明でいて、目の前の空の色を模しているようでもある。
・・・こことも、しばらくお別れだな。
そう思い、目の前のもう閉じた端末を、無表情に見つめた。
ある一点を見つめる。これは、この少年が考え事をするときのクセだった。
・・・昔、親しかった友人に言われたことがあった。
『お前時々、ある一点をじっと見てるな』
『・・・そうか?』
『ああ。時々な』
『うーん。考え事してる時のクセかもな?』
『”かもな?”って・・・俺に聞かれても、』
『ま、いいや!あ、アスラン!それよりさ、』



「なにぼけっとしてるんだよっ」



目の前の少女が青年に声をかける。この少女は、髪を高い位置で一本に結んでいる。容姿からしてまだ幼いが、この少女はこの地域一帯のレジスタンスの副リーダーを勤めており、仲間からの信頼も厚い。
「ああ・・ちょっとな・・・」
どうやら思い出に浸りすぎたようだ。 一息ついて、少年は目の前の少女に目を向けた。
「寂しいのか?お前」
少女は青年をからかう様に言った。 この少女はレジスタンスの副リーダーを勤めるものの、少年からすれば”ただのナマイキな女の子”であるらしい。
ここに来てから数ヶ月、他の仲間ともうまくやれていたが、この少女は言ってみればまあ・・・ケンカ仲間だ。
「そうだよ、俺寂しいんだよー!!コニーちゃんも俺がいなくなって寂しいんだろーっ」
「っば、ばかじゃないの!?お前一人いなくたってどうってことない!!それに”コニーちゃん”って言うな!!」
「いいじゃん。お前のファミリーネームはコニールなんだし。でもまあ・・・・そっかあ、俺なんてどうでもいいんだ。・・・じゃあなんでコニーちゃんの顔は真っ赤なんだー??」
「う、うるさいぞ、このオレンジ頭!!!」
「髪は生まれた時からそうなんだよ。文句言うなら天に言え」
「だから!」
「あ、おばさん。ありがとうごさいます。ジープ、わざわざ取り寄せてくれて・・・」
狭い部屋の奥から少女の母親が出てくると同時に座っていた席を立った少年は、そのスカイブルーの目を細めお辞儀をした。
少女は母親の登場に出鼻をくじかれ、思わず口をつぐむ。
「いえいえ。いいのよ。あなたの力になれれば」
「いえ。ホントにありがとうございます。ジープさえあればジブラルタルまでひとっ走りで行けます」
「ふふ、あなたらしいわね」
「いえいえ」
ふん、と一息ついて、少女は青年に向かって声をかける。
「戻って、来るのか・・・?ここに」
「ああ。言っただろ!必ず、な」
「必ず、だぞ!!」
「ああ」

窓の外には、あの日と同じ真っ青な空。
あいつらも2年前、こんな空をこの地球で見ていたのだろうか。
そして・・・あいつは、今も見ているのだろうか。
「なあ、この前のザフトの連中、この街まできたのか?」
「そうさ!すっごい戦闘だったんだぞ!!お前も見ればよかったのに!」
その作戦に多少参加した少女は得意げに話す。 そう、数日前に行われたザフトによるローエングリンゲート突破作戦の様を。
「んー・・、俺もちょっとだけ見たけどな」
「生意気なやつもいたけどさ、その時のザフトの隊長が優しくていい人だったんだ。MSの操縦も完璧!それにしてもかっこよかったな・・・」
「へぇ・・・」
「あ、お前人の話聞けって!!」
「はあぃ」

ふと、青年の頭に目の前の空に赤い機体が駆けている様が浮かんだ。 数日前のローエングリンゲート突破作戦の際に空を駆けていた赤い機体。 仲間に混じって遠目に見ただけだが・・・アイツに間違いない。 今なら、絶対ジブラルタルにいる。俺と同じだ。死んでなんかいない。 本部へ戻る前に絶対に会わなければならない。
『何でお前がそんなことになるんだよ!!』
ふと、アイツの言葉が頭をよぎった。
『俺の勝手だ!お前は関係ない!!』
そう、俺が2年前死ななかったように・・・。
アイツが死ぬわけがない。
俺たちは・・・死ねないのだから。









「だから、アイツが死ぬわけがないと言っただろうが!!!」
キーンと耳をつんざくような声で、イザークは叫んだ。
叫んだ相手は、いつも隊長を補佐する一般兵。ディアッカ。
「・・・・いや、だから話をよく聞けって!!」
ここはヴォルテールの作戦会議室。
いつものことであるが、隊長の怒鳴り声はその作戦会議室の白い壁に反響して、2倍も3倍も大きく聞こえた。 ある程度反響が収まると、ディアッカは小さくため息をついた。
”アイツ”にあたる人物はただ一人に限られるとして・・・。
本当にコイツは人の話を聞かない。
今更ながらも、アカデミーの頃からの付き合いで慣れてしまった自分が、妙に情けなくなってしまった。
「聞いている!ディアッカ、お前”何故アイツに連絡を入れないのか”と言っただろうが!」
「確かに言ったさ!でもそれはアイツが死ぬって言ってんじゃなくて、なんで”あの情報”をアスランに連絡しないのかっつってんだよ」

”あの情報”とは、先ほど入ってきた極秘事項。
その極秘情報が間違っていなければ、おそらく・・・。

イザークは少し神妙な面持ちで腕を組んだ。
ディアッカはイザークのその様子を見て、瞬時に悟った。 何かある。
確かにイザークは昔から感情をすぐ表に出し、気に入らない者に対しては冷たく接することもある。 が、コイツがこんな表情をするときは、何かを熟考しているときだ。
何かが、あるな・・・・・。
そうディアッカが考えていた時に、イザークは言った。

「今の最高評議会・・・いや、議会だけじゃない。プラントの政界、財界、マスコミ、その他いろいろな企業、組織を牛耳っているのは誰だ」

「は?」
「誰だと言っている」
いつもの彼ならば『誰だといっているんだ!ディアッカぁ!!』ぐらい叫びながら成されるはずの問いかけだが、今は何故か神妙な面持ちで尋ねる。 やはり何かあると考えた自分は正しかったようだ。
突然のイザークの質問に、ディアッカは驚きつつも真剣に、そして慎重に言葉を選んで返答した。

「・・・クライン派」

そうだ。もとはプラントは2代派閥が支配する世の中だった。
一つは穏健派のシーゲル・クライン率いるクライン派。
もう一つは革新派のパトリック・ザラ率いるザラ派。
2人はプラント市民にとっては英雄だった。 一人はプラントの民主化に貢献し、最高評議会議長に就任。その娘は平和の歌姫として迎え入れられた。 もう一人は軍隊を持たなかったプラントを守る為の組織・・・そう、今でいう”ザフト”の創立者であり、プラントを実質的に”国”としてまとめ上げた国防委員長。息子はザフトのトップエリートの赤を纏い、ゆくゆくはプラントをまとめ上げるはずだった。
シーゲル・クラインとパトリック・ザラ。
この2人の発言は、表の社会でも裏の社会でも今のラクス・クラインと比べ者にならない位、影響力を持っていた。 しかし、もとから仲が良かった2人の意見対立が血のバレンタイン以降表面化し、それに伴ってもとから対立していた他の財界・政界・企業などの組織の幹部達が、一斉に2人のどちらかについた。 一方がクライン派に属するならば、他方はザラ派に、といった具合に。 そしてどの組織も2人の指示を仰ごうと必死になった。

そして、現在。
戦後最悪の戦犯と言われたパトリック・ザラ率いるザラ派は影響力を失い、政界・財界・企業などのあらゆる組織から追い出され、代わりにクライン派が台頭してきたのだ。 戦時中は阻害されていたクライン派にとって、今この状態はまさに自分たちの勝ち取った天下であろう。

イザークはクライン派が気にいらなかった。
ただ自分の母親がザラ派に属していたからではない。 もちろん、ザラ派を祭り上げようという訳でもない。 イザークがクライン派を嫌う理由・・・それは、表だって見えない裏の社会での陰湿な動きにあった。
戦時中のフリーダム強奪事件、そして戦艦”エターナル”の強奪。
この2つの罪を平然と起こしていながら裁かれることなく、戦後の混乱の中で戦争に至るまでの罪を全てザラ派、とくにパトリック・ザラに押しつけ、そしてここぞとばかりに政界・財界で力をふるうハイエナのような周到さ。 戦争の際に侵した罪は敗者にすべて被せ、自分たちはのうのうと「平和を!」などと叫んでいる姑息な集団。 死人に口無し、とは良く言ったものだ。 それがイザークの、クライン派に対する見解だった。


「そのクライン派の奴らが・・・・数週間前から不穏な動きをしている、といったらどうする?」


イザークは嘲るように吐き捨てた。
「まさか・・・!!」
ディアッカは瞬時に悟った。悟ってはいけない物を。
「ふん、それと今回の”情報”がかみ合えば・・・滑稽だな」
そう言ってイザークは自嘲気味に笑い、物事を理解したディアッカに向かって続けて言った。
「・・・それを、アイツに言ってみろ。大怪我していようが這いずり回ってもラクス・クラインを止めに行くぞ」
「・・・確かにな」
「アイツはなんだかんだ言ってラクス・クラインの元婚約者だ。それにあのバカなら・・・」
「それで、アスランには連絡しないわけ、か」
「そう言う事だ。それからこの情報は他の奴らにも、それから上層部にも一切報告するな」
「ああ。ザフトの中にもクライン派の奴ら、うようよいるからな・・・」
クライン派。まさかこんなことをしでかすとは。 戦後「平和」「平和」と訴え続けてきた奴らが。
・・・・まるで先の大戦の英雄達のようだな。
「本当にこれが合致するなら・・・潰すしかないな」
「ああ。ま、それが俺たちの役目でしょ」
「ふん、平和の歌姫が聞いてあきれる」
「でもま、あいつも、アスラン大丈夫だろって言ってたし」
「!・・・・ディアッカ、貴様!!!連絡があったのを何故俺にさっさと報告しなかったんだ!!」
「・・・イヤ、お前が熱心に考え込んでたんで、つい・・」
「つい、じゃなあああいいい!!!!」
「だから、もうわかったって!」
「ふん!もういい!!」
「はいはい」

そして、2人は会議室を出た。
部屋を出るとき、イザークは真剣な表情で、振り返ってこう言った。


「・・・俺たちは死ねん。やることがある。もちろん、アイツらもだ」

「ああ・・そうだな」


その後部屋を出てきた2人は、ヴォルテールの隊員が言うには・・・・なぜか、いつもよりまして、真剣だったという。





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