12.


その日、ミネルバのクルーは早朝から大慌てだった。
「速く荷物詰め込め!」
「艦長!新しく配属された4人のパイロットが到着しました!」
「整備班!整備班!至急ブリッジまで!」
「通信機器の異常無し!」
そう。先日告げられた突然の渡航命令。 予定を大幅に縮め、目的地も変更した命令を、深夜艦長から突如言い渡されたクルー達は夜通しでジブラルタル出港の準備をしていたのだ。

メイリンもその一人だった。
昨日の夜艦長に告げられた渡航命令を受け、通信班は大変だった。
数日前のフリーダムとアークエンジェルの戦闘介入によりミネルバの艦首砲は破壊された。 そして、比較的艦首砲の近くに位置するブリッジは大きな被害を受けていた。もちろん通信機器も例外ではない。 戦場における通信機器の重要性は他をおいて飛び抜けている。 通信機器の故障は命綱が切れたも同然だ。 よって、昨日の深夜から今日の朝まで、メイリンを含め通信班は整備班と合同で行われている復旧作業を、それこそ猛スピードで行っていた。

「ふう・・・」
メイリンは一息ついて、今いるモビルスーツ収容デッキを一通り眺めた。通常では考えられないくらいの速さ、そして人数で行われている復旧作業。 ジブラルタル基地からも多数の一般兵が、ここミネルバに臨時で派遣されたそうだ。 人の往来と物資の移動は減る事なく、慌ただしい空気が辺りに溢れている。まだまだ時間はかかりそうだ。
・・・・まるでどこかのターミナルみたい。通勤時間帯のプラントの首都・アプリリウスのターミナルの様が頭に浮かんだところで、ある声が耳を打った。

「休憩入れるぞーっ」

デッキのあちらこちらから歓声が上がる。新任の整備主任から言い渡された初めての休憩に、普段は口数が少ないクルーも含め、みなが歓喜の声を上げる。実際、ミネルバのクルーは働き詰めだった。無理もない。

つかれた。なにか飲み物でも飲みにいこう。
そう思ってレクルームへ足を踏み出そうとすると、見知った2人に呼び止められた。 ヨウランとヴィーノだ。
「メイリン!そっちはどう?進んでんの?」
表情に少しの疲れが見えるものの、まだまだ元気が有り余っていそうな声でヴィーノはメイリンに声をかけた。
その声にメイリンは、子供だなぁ・・・と少しだけうんざりした。
こんな時ザラ隊長なら絶対、「大丈夫か?」とか言って気遣ってくれるはずなのに・・・。
あ!でも、なんにもないのに私なんかに声はかけてくれないかな。 私が勝手に好きって思ってるだけだし、第一あんまり喋った事もないし。 そのうちにあんなことになっちゃって。 大丈夫なのかな・・・お見舞いに行っても会えなかったし・・・・。 でも。ミネルバは作業が終わり次第出港って。 お姉ちゃんとザラ隊長は・・・・どうなるの?

なかなか返事をしないで考え込んでしまったメイリンを不思議に思ったヴィーノが、顔をのぞき込んできた。
はぁ、と一息ついて、メイリンは口を開く。
「んー・・・まあまあ、かな。デッキとの通信ケーブルは取り替えたし、カーペンタリアからの電波もキャッチできたよ。後はバートさんが大体やってくれるから、私はそのお手伝い」
「へぇ・・」
「ヨウランとヴィーノは?」
「えーっと、俺たちは・・・えーっとなんだったっけ、ヨウラン」
そう言ってヴィーノが尋ねたが、ヨウランは神妙な面持ちでその後の予定ではなく・・・小さな、しかし低い声で別の言葉を発した。
その言葉はメイリンとヴィーノを驚かすのに十分過ぎるものだった。


「・・・メイリン、あのさ、お前ルナとザラ隊長のとこに行ってこいよ」

 
「ぇ・・・」「は?ヨウランお前何言ってんの?」
「だからルナとザラ隊長がいる病院に会いに行けって言ってるんだよ」
メイリンは一瞬はっとした顔になったが、すぐにしゅん・・と下を向いた。ヴィーノはびっくりして何が何だかわからないと言った顔をヨウランに向けた。
「まだ暇はあるっちゃああるけどよ、復旧作業と準備が終わり次第ミネルバはカーペンタリアに出港するんだぜ」
「それくらいわかってるよ!昨日艦長が、」
言ってただろとヴィーノには最後まで言わせず、ヨウランは続ける。
「だったら、だ!まだ怪我が治ってないルナとザラ隊長を戦闘になるかもしれないミネルバに一緒に乗せて、カーペンタリアまでほいほい行くと思うか!?」
ヨウランは状況を飲み込めていないヴィーノに慌ただしく言った。 ヴィーノはうつむいているメイリンと真剣な表情のヨウランを交互に見つめる。
「え、じゃ、じゃあ・・」
「そうだよ!ルナとザラ隊長とはここジブラルタルでおさらばなんだよ!」
まわりに聞こえない様にするための小さい声ながらも、強い口調でヨウランは言った。 メイリンは今にも泣きそうな表情で顔をあげ、ヨウランを見つめる。
「でも・・・だからって、今抜け出して病院なんかに行ったら、シンやレイみたいに閉じこめられるんじゃないの・・?」
確かに規定の位置を勝手に離れれば軍規違反となる。 シンやレイはパイロットとしての腕があったから釈放されたものの、メイリンのようにただの一般兵が軍規を侵した場合、銃殺刑は避けられないだろう。
心配そうにそう言うメイリンを庇うように、ヴィーノも続ける。
「そうだよ!確かに会いたいだろうけどさ、今ここでメイリンが軍規違反で捕まってみろよ!ルナに悲しい思いさせるだけだろ!」
しかしヨウランは譲らないといった表情で2人を見つめる。
「メイリン、お前今からバートさんの手伝いって言ってたよな?整備の手伝いしなきゃなんないからできないって言え」
「・・・え!?」
頭を弾かれたような表情のメイリンに、なおもヨウランは続けて言った。
「俺らのところにどうしても通信班が一人必要なんだって言ったら、絶対ばれない。この状況を見てみろよ」
そう言ってあごでデッキの中心のほうを指す。
デッキでは、休憩時間というのにいまだに人が慌ただしく行き来している。
「休憩時間でこれだ。作業が始まったらもっとわけわかんないくらいに大量の人が動く。絶対ばれない」
「・・・・・」
「それにあの新任の主任!あいつ、昨日からずっと俺側で一緒に仕事してたけどよ、めちゃめちゃとろいぜ!エイブス主任みたいに短気じゃないし、ミネルバのクルーの名前と顔、まだ一致してねぇみたいだし」
「確かに・・・あいつならごまかせるよな」
先ほどまで反対していたヴィーノも思わず納得してしまった。 ヨウランはなおも強気な姿勢を崩さずに言う。
「だからメイリン。お前だけでいいから会いに行ってこいよ。シンみたいに捕まるのもゴメンだし、こんなこと言いたくはないけど・・・もう会えないかもしれないんだぞ、お前」
その言葉にメイリンははっとする。 ヴィーノは黙ってメイリンを見つめている。
「わかってると思うけどさ・・・。ルナは姉ちゃんだろ?それにザラ隊長が心配なんだろ?違うのかよ?」
「心配に決まってるでしょ!!!」
そう言ってヨウランとメイリンはお互いの顔を睨んだ。 しかしすぐにヨウランが表情をゆるめ、諭すように優しく言った。
「・・・なら迷うことないだろ。会ってこいよ!会ってなんか言ってこいよ!”さようなら”とか”またね”とかさ」
「そうだよ!アリバイ工作は俺とヨウランにまかせて!」
先ほどまで乗り気ではなかったヴィーノも、とびきりの笑顔でそう言った。
「なんだよお前!さっきまでめちゃめちゃ反対してやがったくせに、何が”アリバイ工作はまかせてぇ!”だよ!!」
「なんだよ!ヨウランこそ”さようなら”とか”またね”とか、そんなの今時別れの時に言うかよ!!なに考えてんだよ!」
「あれは例えだ!たとえ!!それくらいも・・・」

「わかった。・・・私、会いに行ってくる。お姉ちゃんと、ザラ隊長に」

ふざけて言い争いをしているヨウランとヴィーノに向かって、メイリンはくすりと笑って言った。
「そうだよね。ちゃんと会って、それからカーペンタリアに行きたい。言いたいこともまだいっぱいあるの」
2人は小競り合いをやめ、メイリンにいつになく真剣な表情を向けた。
「じゃあ、バートさんに言ってくる」
「うん。まかせといて!」「エイブス主任にも、ヨロシクな」
「うん。なるべく速く帰ってくるから」

「整備班!休憩終了だ!持ち場に戻れ!」
遠くのほうで新任の主任がそう言うのが聞こえた。

「行ってくるね!!」
「うん!」「おう!」


そう返事をして、ふと、メイリンは思った。

2人とも、意外にかっこよかったよ。 全然子供っぽくなかったよ。


メイリンは自然と駆けだしていた。
2,3歩進んで、もう作業に戻っているだろうと、振り返って2人のほうを見ると。


そこには、とびきりの笑顔の2人が、まだこちらを見ていた。






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