15.


デュランダルは一人、議長室で、デスクの前の大きな椅子に身を埋めていた。
薄暗い室内に置かれたデスク上に肘を乗せ、その端正な顔の前で手を組んでいる。
本来、最高評議会議長は、このような深夜の時間帯に議長室にいる義務などない。 しかし、再び訪れた核の危機を目の前にしたプラントの最高評議会は、連日深夜まであまり意味もない会議を延々と開いていた。 デュランダルがここにいるのも、その会議が今日も深夜まで行われたからである。 つい先ほど、やっと終わった”議員達のオーブに対する怒りのぶつけ合い”と化している議会。
しかし。
そこまで考えて、デュランダルはデスクのパソコンのスイッチを入れた。
とたんに目の前には、暗い室内を青白く照らすかのように、画面が現れた。
そう、今日の議会で唯一、実践的ですぐに効果がでると思われる案が国防委員長から出た。
ザフトの、いやコーディネーターの全てをかけて製造されたもの。
それが、今自分の目の前にあるパソコンの画面に写る、戦艦と、要塞。
一見すると、ただの戦艦3隻の図解と、プラントが宇宙に所持する無数のコロニーの一つにすぎない要塞の図。 しかし、・・・これらが、今後プラントの未来を決める。 いや、”これら”という表現は適切ではないかもしれないな。
そう考えて、デュランダルは、その顔に笑みを浮かべた。
この戦艦に乗る彼、そして収容される彼の操る新型モビルスーツ。
彼に殺される過去の英雄達、その他の人間の無数の魂。
殺され、無惨にも宇宙の塵となる人間は、死を目前にして、その魂を沈める鎮魂歌を聞くことになるだろう。
そして彼なら、自分のあのプランを実行する上で必要不可欠な”犠牲”の役割も果たしてくれるはずだ。
全てを知った上で、なおも彼は一寸の狂いもなく、完璧に任務を遂行するだろう。



いや・・・彼だけじゃない。
レイとシンが操る新型モビルスーツ、そしてそれを収容するミネルバもいる。
確実に、戦況はこちらに傾く。
今はそうでなくとも・・・必ず。
そういう確信が、デュランダルにはあった。 いや、プラントの未来だけではない。 自分の、そして世界の未来を・・・。

これで・・やっと近づいた。 レイ。ラゥ。タリア。
そして・・・無惨に散って行った者たち。 待っていてくれ。 もうすぐだ。



ダュランダルは、いつの間にか閉じていた目を開いた。
ふと暗い室内の中の、来賓用のソファの側のチェス盤が目に入った。

先日訪れたある人物と、チェスをしたままになっている。 確か相手が黒、自分が白であったと思う。
ふと、その人物に対して感じたことを思い出した。 そう、単独で自分との会談を申し込み、オーブを憎いと言い、そのためなら何でもする、そう言った一人の少年。 熱心に語るその姿は・・・まるでいつかの彼、そのものだった。 そう、「父の呪縛」から逃れきれずに、必死に戦う事を否定したアスランと、あまりにも似ていた。似すぎていた。 ただ・・・怒りの矛先が全く異なっていたが。

そこまで考えて、意識をやりかけのチェス盤に戻す。
席を立ち、ソファに腰を下ろして、そのチェス盤を見つめる。
透明に光るチェスの駒を見つめて、その一つをとった。
手にとった駒は、相手の黒のナイト。
そして、その駒を、こちらの白の陣営の最前線においた。
白の陣営上に、あまりにも目立ちすぎる黒のナイトの駒。 デュランダルはその駒を見つめて、満足そうに目を細めた。
・・・やっと、私についたようだね。アスラン。
初めて会ったときの彼、そして復隊したときの彼。 その表情は、まだ揺れていた。 何と戦うべきか、まだはっきり決まっていなかったようだ。 しかし、やっと揺れていた振り子が止まった。 その役割を、何一つ狂うことなく完璧に演じてくれた、過去の英雄達・・・フリーダムとアークエンジェルに感謝すべきかな。
しかし・・・やっと、これで本当に始まる。


ふと、昔聞いた、地球の神話の中の一つを思い出した。

昔、こんな話があった。

神々のなかで、たった一人の裏切り者。 その者が寝返り、悪の者たちに荷担した。
そして神々と、悪の者たちの間に決して避けられない争いが起こった。
両者を残らず焼き尽くす争い。
戦争。 それが、ラグナロク。


アスラン・ザラ。
彼はまるで、神話に出てくる”たったひとりの裏切り者”のようだ。 自分とかつての仲間を焼き尽くす結果になっても、ただただ戦い続ける戦士。戦わずにはいられない、戦士。

そう考えてみると、自分は”悪の者”か・・・? それもいいかもしれないな。
デュランダルはそう思い、ふと笑みを浮かべる。
しかし・・”悪の者”と成りはてた自分には、”裏切り者”の彼がついている。
滅べばいい。過去の英雄、神々たちよ。
キラ・ヤマト、ラクス・クライン、カガリ・ユラ・アスハ。
自身の仲間であった彼の手にかかり、滅びるがいい。
そう。彼を打ったあの日から、お前達は滅びる運命なのだ。


避けられない争い。 両者を焼き尽くす争い。
戦争。


「ラグナロクの、始まりだな」


デュランダルはそう言って、暗い室内のチェス盤を満足そうに眺めた。





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