16.


ここはプラント・ディセンベル市。
コーディネーターの持つ軍隊・・ザフトの中枢であるザフト本部だ。
全てのザフトの兵はここから始まり、死ねばここに帰る・・・とまで言われている。

そこの、特別待合室。 シンとレイはそこにいた。
プラントでの2日間の休暇を終え、新型モビルスーツ受領のためにザフト本部に出頭した。 2人に与えられる新型の機体はその存在自体も重要機密である。 よって議長直々に受領する。議長がアプリリウスの最高評議会からここディゼンベルのザフト本部に訪れるまでの時間、機体を受領した後の任務内容を発表する。その後、ここ特別待合室で待つように。 シンとレイは、そう命令を受けた。

シンは、この2日間のことを思い出していた。
シンとレイは、休暇の間は、マスネおばさんの家に泊まっていた。 マスネおばさん・・・おばさんは、俺がオーブからプラントへ行ったときに、オーブの将校さんから紹介された下宿先の家の、大家さんだ。 大家さん・・・と言っても、おばさんには家族がおらず、おばさんと俺とレイしか住んでないけど。 おばさんは、俺を助けてくれたオーブの将校さんの遠い親戚って聞いてる。 ずっと前に家族を亡くしてプラントにやってきたそうだ。 プラントへ行ってすぐにザフトのアカデミーに入った俺は、アカデミーで寝泊まりしてて、(というかアカデミーの生徒は全員そうしなきゃなんない)マスネおばさんの家にはちょっとした休暇にしか帰れなかった。 それでも、マスネおばさんと一緒にいる休暇の間は帰る家と家族を亡くした、俺の支えだった。

そう言えば、何回目かの長期休暇のときだ。休暇の間帰ることがないって言ったレイを、マスネおばさんの家に連れて行った事があったっけな。 そしたらおばさんは一目でレイが気に入って、休暇の間はレイも寝泊まりしていいって言い出したんだ。 レイは遠慮して、最初の間は泊まらないって言っていた。 でも次第にマスネおばさんとも仲良くなって、「下宿代を払うから」という理由で、レイも休暇中はマスネおばさんの家に泊まるようになった。

で、昨日。 おばさんの家に、いきなり知らないヤツが尋ねてきた。 たしか・・・ジンって言ったっけ。 優しい顔してるくせに、すっごい口数は少ないヤツだった。 おばさんは、遠い親戚の子だって言ったけど。 どうもそうには見えなかったんだよなぁ・・。 それに、ちょっとだけ泊まっていって、また出て行って。 何だったんだ?・・・アイツ。


「待たせて悪かったね、2人とも」
そう言って、デュランダル議長が入ってきた。 2人とも起立し、敬礼をする。 そんな2人を制して議長は「私に付いてきてくれたまえ」と言い、歩き出した。

ザフト本部の長い廊下を、機体が収容してある倉庫まで歩く。
「休暇は、楽しめたかね?」
途中、不意に議長がシンとレイのほうを見て言った。
「は、十分に満喫させてもらいました」
レイが即座にそう答える。
「あ、えーっと、俺・・いや、私も、満喫させていただきました」
シンも、ワンテンポ遅れて答える。
「それは良かった。これまでに君たち2人は素晴らしい働きをしてくれた。この2日間の休暇は、私からの労いだよ」そう言って議長は優しく微笑む。
「あ、いえ・・ありがとうございます」
シンは何だか照れくさくなって、頭をかきながら答えた。
ちょっと前も褒められたけど、やっぱりうれしい。 何と言っても、あのプラント最高評議会の議長が直接、自分とレイを褒めてくれているのだから。 こんなことはめったにない。
「これからも、君たち2人には期待しているよ」
「「はい!」」

「議長、着きました」
議長の横にぴたりと付いていた護衛の人たちが、ある扉の前まで来たときにそう言った。
「ありがとう。君たちは、ここで待っていてくれ」
彼らのほうを向いてそう言った議長は、自分とシンとレイだけを倉庫に通した。



目の前に広がる、灰色の鋼の機体が、2体。
シンは、なんとも言えない感慨を味わった。
また機体はアンプに繋がれてはいるが、今か今かと自分を待っているようだ。 インパルスを初めて受領したときもすっごいドキドキしたけど・・・この高揚感は、そんな比なんかじゃない。
自然と、目が機体に引き寄せられる。 目の前にただ佇む灰色の機体を見て、シンは思った。

体の底から・・・この機体に乗りたい。 乗って、空を駆けてみたい。
俺は、この機体に乗りたい。

「気に入ってくれたかね?君の機体・・・ZGMF-X42S デスティニー」
「デスティニー・・・・」
「そうだ。それがこの機体の名前だよ。この機体は、君専用に設計されたものだ」
「俺、専用・・・?」
「ああ。君の特長、君のパイロットとしての高い能力・・・それを考慮して作られた、君専用の機体だ」
そう言って、議長は機体を見上げる。その顔に笑みが浮かんでいた。 シンもつられて機体を見上げる。
そうか。俺のために、コイツは作られたんだ。 だから、俺はこの機体に乗りたいという思いに駆られたのか。 この機体が、俺を呼んでる・・・・。 乗りたい・・・。この機体に、乗りたい。
「シン」
ふと議長が、真剣な表情になってシンを見つめる。
「君には、期待している。これからの任務内容は、聞いているね」
「はい」
「その任務の出来によって、我々プラントの今後が左右されると言っても過言ではない。おそらく、今まで以上に厳しいものになるだろう。しかし、私は君を信じている。我々プラントのために、君も全力を尽くして欲しい」
「・・・はい!!」
そう言って、シンは議長に敬礼をした。
「では、シン・アスカ。これから機体の説明をさせてもらう」
倉庫の奥から現れた整備士が言った。 シンはその整備士と共に倉庫を出た。

倉庫には、レイと議長。2人だけが残った。
レイは、デスティニーよりも奥にある、もう一方の機体をただ何も言わずに見上げていた。
彼の瞳は、その灰色の機体に引きつけられていた。
「レイ」
「ギル・・・これは、」
「ZGMF-X666S レジェンド。この機体の開発の際に、元となったのはZGMF-X13A プロビデンス。 ・・・・ラゥの、乗っていた機体だよ」
その言葉に、レイは弾かれたように議長を見つめる。 しかし驚きの表情をすぐに憎しみの表情へと変化させ、低い声で言った。
「あの、キラ・ヤマトに打たれた機体ですか」
「ああ。そうだよ」
己の傷からふと目を逸らすかのような仕草で、議長はレイから視線を逸らした。レイは自身の手をぐしゃりと握る。

ラゥ・・・。
2年前ラゥが、殺された。
あのラゥが、殺されたんだ。何もかも完璧に作られたコーディネーター・・・キラ・ヤマトに。 俺が作られたのも、ラゥが作られたのも、全てあいつの為なのに。
それなのに・・・!!
なぜあいつに、ラゥの命を奪う権利がある!?
ただでさえ、短いラゥの命を・・・・!!!

「この機体を君に預けるかどうか・・・。大分悩んだ」
そう言う議長の顔は、とても辛そうに歪められていた。
「しかし・・・。やはり、この機体は君以外に乗る資格がない。そう思った。・・・・だから、」
デュランダル議長は、そう言って、真剣な表情でレイを見つめた。

「君に、この機体に乗って欲しい」

ギル・・・。
わかっているよ。 あなたが悩んだ事くらい。
俺には、ラゥのようにキラ・ヤマトを憎いと思う気持ちがある。 俺がこの機体に乗れば暴走するであろう事は、決して想像に難くない。
しかしそれでも、あなたは俺に、レジェンド・・・この機体を託そうと、言った。
そんなあなたの苦渋の決断。受け入れない訳が、ないでしょう?

「レイ・ザ・バレル、レジェンド、受領いたしました!!」

必ず・・・ギルの期待に応えて見せる。
そして、キラ・ヤマト・・・・ラゥの敵を、この機体で、打つ。
必ず、殺す。 それが・・・俺がラゥに、そしてギルに対して出来る唯一の事だ。
必ず・・・、この機体で。自分自身の手で。

殺す。


胸に秘めた思いと共に、レイは、再び目の前の鋼の機体を見上げた。






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