17.


「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです」
「副長の、アーサー・トラインであります」
「遠路遙々、よく来て下さった。私はザフト軍カーペンタリア基地、べーカー・アームズ。長旅でご苦労の所申し訳ないが、早速今回の作戦の説明を」
「「はっ」」

ここは、ザフト軍カーペンタリア基地。
ミネルバのジブラルタル基地からの突然の渡航も、やっと終焉だ。
しかし先人たちがそう言い続けてきたように、物事の終わりは、始まりでもある。
まさにこの時も、ザフト・・・そしてプラントの威信を賭けた壮大な作戦が始まろうとしていた。

タリアとアーサー、2人を作戦会議室まで案内したアームズ隊長は神妙な面持ちで、椅子に腰掛ける2人を見つめる。
「あなた方は、まだ作戦の詳しい内容をご存じでないと、聞いている」
「ええ。上からは、ただ進路を変更しカーペンタリアへ行け、と」
「・・・・無理もない。これからの作戦は、これまで以上に色々なものが複雑に絡み合っている。今の今まで上があなた方に作戦内容を言わなかったのは、それ故です」
「複雑なもの・・・・?何ですか、それは」
アーサーが、不思議に思って尋ねる。
複雑なもの。 そう言った瞬間に、アームズ隊長の顔が一瞬歪められたのを、タリアは見逃さなかった。

「政治・・・・ですわね?」

タリアは正面に座る、アームズの神妙な表情を見つめる。 アームズはふと、視線を後ろで待機している一般兵に向けた。 その視線を受けた一般兵は敬礼をし、部屋を出て行った。
部屋には・・・・タリアとアーサー、そしてアームズ隊長の3人のみになった。
「赤道連合・・・・。お2人とも、赤道連合をもちろんご存じかと思う」
「ええ。赤道直下に位置する、あの中立国でしょう?」

赤道連合。それは、地球の中心、赤道上に位置する南国の国々。
そして、地球軍・ザフト、どちらにも荷担していない中立国だ。 赤道上に位置するだけあって、熱帯で気温・湿度ともに高く気候が変化しやすい。特にスコールが予告無しに降る。 そんな国だ。
位置的にオーブ隣接しており、環境も似たようなものだが、まさに似て非なるものと言ったところか。
オーブのように小さな島国のあつまりでもなければ、もちろん軍事力も、オーブのように発達してはいない。 それ故、大西洋連邦やユーラシア連邦、そしてザフトにも目をつけられることはなかった。 先の大戦に於いても、地球上の他の国に比べれは被った被害は少ないと言えるだろう。
「その、赤道連合がどうしたんです?・・・・まさか、赤道連合を攻めよう、なんて事は無いですよね??」
アーサーが尋ねる。
タリアはアーサーを視線で制した。 アームズ隊長は、あからさまに顔をしかめたものの、すぐに神妙な顔つきに戻って言った。

「あの国が、我々の手を借りたいと言ってきている」

「え!?」「えええええぇえええ!!??」
タリアもアーサーも、思わず声をあげた。
「どういうことです?あの国は」
「ええ。赤道連合は公には未だ中立です。しかし、・・・・」
そこまで言って、アームズは黙った。

なるほど・・・。
公には中立のまま、我々ザフトに極秘に助けを求めている、という訳か・・・。

タリアは黙りこんだアームズを見て、瞬時にそれを悟った。アーサーもようやく理解したらしい。だが。
「しかし、釈然としません・・・!!あの国は、今の今まで中立を断固として守ってきた国ですよ!?」
「アーサー!口を慎みなさい」
「でも・・艦長!」


「オ ー ブ も、 そ う で し た よ」


ゆっくりと、しかし憎しみを浮かべた表情でアームズは言った。
「オーブも、先の大戦で、あれほど中立を守ると言っていたのに・・・すぐに意見をひっくりかえしたのは、あなた達が一番よく知っているはずでしょう?」
アームズの発言に、アーサーは口をつぐんだ。

ユニウスセブン破壊作業で、宇宙からそのまま降下した際。
訪問していたオーブの国家元首を送り届けたにもかかわらず・・・。
領海から出れば、そこには待ってましたと言わんばかりの地球軍。
オーブが勝手に中立をやめ、そのせいでミネルバは甚大な被害を被った。

アームズは、押し殺した声でなおも続ける。
「しかし・・・。しかし、私が憎いと思うのは・・・むしろその自国の決断を破り、あなた方ミネルバを打ち、アスラン・ザラを殺そうとしたテロリスト達です!」

アームズは握った拳で机を叩いた。 机の上にあったカップが、カタカタと音を発てる。 その音にはっとして、アームズは決まり悪そうに口をつぐんだ。しかし。 実を言うならば、タリアもアーサーも同じ気持ちを抱いている。
「失礼。話の筋がずれましたな。 つまり私が言いたいのは・・・・赤道連合も、この戦争に際して長年の中立を破る決意をしたオーブと同じ、ということです。自国のために中立をやめる決意をした。だが今この時勢に於いて”ザフトに助けを求めた”などと公言すればどうなるか。お2人とも、おわかりでしょう」
タリアとアーサーは押し黙った。

自国のため、我々の手を借りたい。 しかし公にそれを発表すれば、地球軍・・・特に赤道連合の真横に位置するオーブをはじめ、大西洋連邦・東アジア共和国・ユーラシア連邦という大国に叩かれることは目に見えている。だから公には中立のまま、極秘に我々に助けを求めた、という訳か・・・。
しかし。
「その、手を借りたいというのは・・・具体的に言えば、我々ザフトは何をすればいいんですか?」
先ほどより神妙な面持ちになったアーサーが、アームズを見る。 するとアームズは、ゆっくりと逡巡するように言った。
「数日前・・・赤道連合の代表の方が、直接ここにお見えになりました。 そしてこの基地を介し、プラントの最高評議会の方々と会見を極秘に行いました。運よく私は、その場に居合わせることができました」
そう言い、アームズは真剣な表情で答えた。


『苦渋の決断だった。私たち赤道連合が、中立を破る・・・それは、ほとんど死に近いものだった。無論あなた方コーディネーターの全てを恨むつもりはない。 ただ・・・・我々がユニウスセブンの落下で被った被害は、地球上のどの国よりも甚大であること。我らの国の多く民が、無惨にも死んでいったこと。それは動かぬ事実だ。 それによって、はじめは国民もあなたがたプラントに敵意を見いだしていた・・・。今も、あなた方が憎いと思っている者も多い』
『はじめは・・・?』
『そうです・・・はじめは。テレビなどのメディアで、あれはあなた方コーディネーターが落とした、と報道された直後はそうでした。 しかし・・・あの国が・・・!!地球軍・・・特に、大西洋連邦と東アジア共和国・・・!!あれらの国だけは・・・どうしても許すことができない!!あんな同盟を結んでおきながら・・・!!』
『あんな同盟・・・とは?』
『簡単に言えば、我々赤道連合が自然災害を被った際は、大西洋連邦と東アジア共和国が率先して救済処置を行う。 そのかわり我々赤道連合は、中立を守る。そういった内容の同盟です。 ところが大西洋連邦、東アジア共和国、共に、救済どころか支援物資すら満足に送ってこない!!オーブもその同盟に加入したと言っているが・・・、オーブからも、全く音沙汰が無い。・・・ただザフトを打つ為の同盟として結んだのではないか、とも思う』
『その上、大西洋連邦と東アジア共和国は我々に”戦争に参加しろ、我々地球軍に戦力を提供しろ”と言い出した!!”そうすれば、我々も救済処置をとろう”と東アジア共和国と大西洋連邦は、そう言うのです!!無論、同盟自体に”戦力を提供する”など一言も書かれていません!!』
『それに対して・・・それに対して、あなた方は落下後すぐに支援部隊を送って下さった。そして、同盟など結んでもいないのに、我々政府と連携をとり、我々を、そして何より国民を、救って下さった。 あの時、あなた方の支援が無かったら・・・もっと多くの犠牲が出ていたはずだ・・・』
『その後の地球軍の核攻撃もあり・・・国民も、いまや大部分は、あなたがたプラントに傾いている。しかし公に発表できるはずもない。それで、こういう形であなた方のお力を少しだけ分けて頂きたく思う。勝手すぎるとお思いでしょう。しかし! どうか、ご了承頂きたい! 我々も、少ない戦力と言えど・・・あなた方の支援に、全力を尽くすと約束する!!!』

なるほど。それで上がはっきりした情報を言ってこないわけね。
これは極秘中の極秘。 なるべく多くの人間には知らせないほうがいい。
例え、今回の作戦に関わっている者だとしても。

「・・・で、その、今回の作戦って・・・?」
神妙な面持ちのまま、事の重大さをやっと理解してきたアーサーが、おどおどしながらアームズを見る。
アームズはタリアとアーサー、2人を交互に見つめ、一息ついて言った。
「今回の作戦名は、”オペレーション・ヴァルハラ”」
「オペレーション・ヴァルハラ・・・」
「ヴァルハラの決行日は、今日から2週間後。そして、我々に下された命は・・・」



「赤道連合に参戦を強要する地球軍に属する、東アジア共和国の主要基地・・・・華南基地を打ち、再起不能にすること」







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