18. 「でも、なんで華南基地を?」 『うーん。君たちにはわかりにくいかもしれないな・・・』 ここは、アークエンジェルのCIC。 CICで、キラとカガリ、マリュー達クルーは、極秘の回線を使って、宇宙にいる”歌姫の船”・・・エターナルと交信をしていた。 アークエンジェルのクルー達、誰もが待ち望んだエターナルからの通信。 しかし・・・長い間交信がとれなかったエターナルからの報告は、アークエンジェルのクルー達に衝撃を与えた。 __プラントにいるクライン派の者達の報告から、ザフトの戦艦ミネルバ・・・・・ジブラルタルで自分たちと接触したあの艦が事もあろうか、地球軍の主要な基地・華南基地を潰そうとしている。 そして、その作戦に赤道連合が関わっている。 画面上にいるバルトフェルドとラクスは、そう言うのだ。 「それはどういう事?」 バルトフェルドのあいまいな返答に、マリューは再び問い返した。 画面の向こうのバルトフェルドはコーヒーを片手に、神妙な面持ちで顎をさする。 『華南基地は、まあ言ってみれば、叩きどころですっといった感じだからなぁ』 「だから、その理由を聞いてるんだろ?さっさと言ってくれ」 耐えきれなくなったカガリが、画面に向かってぶっきらぼうに言う。 『・・・しょうがないなぁ。なら端的に言うよ。 華南基地は地理的にも軍事力的にも、他の地球軍基地よりも劣っている』 「劣っている・・?そうは思えないけど」 不満そうに言うマリューを、バルトフェルドは人先指を立てて制する。 『地球軍の主要な基地のなかでは、劣っているんだよ。 ・・・・あの地域はかつて、工業や経済でもっとも栄えた所だ。 地球上の国々から、多くの移民が訪れ、多くの企業がこぞってあの地域に進出した。 が、・・・それが、あの地域の軍事力を削ぐ結果となってしまったんだよ』 バルトフェルドが、片手のコーヒーをすする。 隣のラクスの表情が、どことなく曇っている。 『人の移動。企業の進出。それが、膨大な人口増加を引き起こしてしまった。 元から人口が多かったあの地域に、多くの人間が一度に移動したんだ。 そりゃあ、いくら資源が豊富でも、それを消費する人間が多ければすぐに使い果たしてしまう。 資源の枯渇、そして追い打ちをかけるように訪れる食料困難。 おまけにモンスーン期の降雨が、資源を掘り出すために切り開いた土地に降り注いで大規模な洪水を引き起こしたと来れば、・・・もう救いようがない。 戦力になんか到底なりそうにない赤道連合に参戦を強要するのも・・・そのせいだろうな。 今は大分回復しているようだが。 その華南基地を打って下さいと、わざわざ赤道連合が言ってきてるんだ。 華南基地は、元々ユーラシア西側の地域の独立に反対しているし。 その戦力は、実際ユーラシア西側にまで侵攻してくることもある。 ”積極的自衛権の行使”を主張するザフトとしては、降ってきた幸運だよ。 打たない訳には、いかないだろうな』 クルー達が、押し黙る。 「でも・・・でも、資源の不足なら!ザフトだって、大西洋連邦だって、同じじゃないか!」 カガリが耐えきれず、声をあげる。 「確かに・・・。僕も、カガリと同じ考えです。資源の不足なら、東アジア共和国だけじゃない。どの地域でも、どの国でも・・・もちろん、プラントでもそうです。どの国も、どの軍も、同様に資源不足という問題を抱えているんです。 僕たちも・・・2年前、地球軍にいたからわかります。 だから、ザフトが今回華南基地を打つのは別の理由もあるんじゃないでしょうか?」 キラも、カガリと口をそろえて言う。 しかし、バルトフェルドは首を横に振る。 『違うね。君たちは地球軍にいたからわからないんだ。自分の弱点なんて・・・わかりにくい事この上ない物なんだよ』 その言葉に、CICにいたクルーのほとんどが、バルトフェルドを睨む。 そう、ここにいるほとんどのクルー達は、元は地球軍に属していた。 カガリも一時とはいえ、アークエンジェルに乗っていたのだ。 そのような事を言われて、頭に来ない人間などいない。 その視線に気が付いたらしい。バルトフェルドは肩をすくめて言った。 『でも、事実だよ。まあ、ついでに言うと、ザフトの資源不足も認めるよ。 プラントなんて・・・年がら年中資源不足に困ってる』 そこまで言って、バルトフェルドは、もうすでに冷めかけたコーヒーをすする。 『でも、そのなかでも比較的資源がある所がある。 ・・・・カーペンタリアとジブラルタルだ。 海峡に臨み交易の盛んなジブラルタルと、資源が豊富なカーペンタリア。 特にカーペンタリア基地がある大洋州連合は、国土の大きさの割に人口が少ない。 そして豊富な資源を持ち、大西洋連邦やユーラシア連邦と地理的に離れている南半球に位置している。 基地設立当時に比べたら大分資源は無くなってきているらしいが。 それにしても、他の地球の国々に比べたら、まだまだ余裕で勝っている。 面積、資源、位置。この3点から考慮しても、ベストだった。 まあもちろん、あの大洋州連合に於いて、我々コーディネーターの人口の割合が多かったという大前提があるがね・・・。 その3つの利点に、いち早く目をつけたのが・・・』 そこまで言って、バルトフェルドは押し黙る。 そして、ちらっと、横に立ってラクスを見上げる。 『では、続きはわたくしが言いましょう』 そう言ってラクスは微笑んだ。 心配そうに、キラが尋ねる。 「ラクス・・・?」 『大丈夫ですわ、キラ』 ラクスはキラを見て、優しく微笑んだ。 しかし、次の瞬間には、誰よりも真剣な表情で言った。 『その3つの利点に誰よりも早く気づき、基地を設立したのが・・・前国防委員長であり、議長も兼任していた、・・・ザラ議長ですわ』 カガリが、はっとして顔を上げる。 そしてその場にいた全員が、息を飲んだ。 パトリック・ザラ。 その名を知らない人間など、いない。 先の大戦であの、大量殺人兵器・・・・ジェネシスを作らせ、ナチュラルを滅ぼそうとした男。 ラクスの父親であるシーゲル・クラインを殺した男。 そして。 アスラン・ザラ。 彼の実の父親。 その事実を知らない人間も、ここにはいない。 カガリの脳裏にあの日・・・打たれた直後のパトリック・ザラのまだ温かい体、そして彼を看取った・・・・アスランのあの日の涙が、鮮やかによみがえる。 不意に左手の薬指を、右手でぎゅっと抱きしめる。 アスラン・・・・。 『資源の不足はどの国も同じですが、カーペンタリアは他の地域に比べ、比較的まだ資源がある。そう言うことですわ。 その上中立だった赤道連合が戦力に加わる。 それゆえに・・・今度の華南基地侵攻は、可決されたのですわ。 そして、資源と軍事力・・・ともに華南より上の、カーペンタリアに基地を持つザフトとって、戦況は長引けば長引くほど有利なものになるでしょう』 今度こそ、クルー全員が押し黙った。 ザフトの華南基地侵攻は、どうやら避けられないもとの化したようだ。 誰もが、そう思った。 カガリがふと、口を開く。 「じゃあ・・・オーブも、もちろん地球軍として、ザフトの華南基地侵攻に参入するのか・・・?」 キラはカガリの方を振り返る。 カガリは左手の拳を、右手で頑なに握りしめてうつむいている。 キラにはその表情は、ジブラルタルでオーブ軍が地球軍の友軍としてザフトと戦った時と・・・・同じに見えた。 自分の非力さ、そして悔しさをこらえている目。 押し黙ったままのクルー達に向かって、キラは言った。 「僕たちも行きましょう、マリューさん」 その言葉に、先ほどまで押し黙っていたクルーが、弾かれたようにキラを見る。 「そうね・・・行くしか、なさそうね」 「ええ。・・・このままここで、またオーブが戦いに参加するのに、黙って見ているわけにはいきません。・・・そうだよね、カガリ?」 キラはカガリの気持ちをくみ取るように、優しい顔で見つめる。 しかしカガリは、キラの笑顔を呆然と見つめたままだ。 そして自分の胸の前で、左手を右手で覆い、ふいと視線を右斜め下に泳がせた。 キラは不思議に思う。 カガリ・・・・? 『確かにな。地球軍でないとはいえ・・・スカンジナビアにも限界はある。いつまでも君たちを匿い続けるわけにもいかんだろう』 画面上のバルトフェルドも同意する。キラは視線を泳がせたカガリを気にしつつも、画面を見上げて言った。 「このまま匿ってもらうより、出港して、戦争を止めましょう。そして僕たちに出来ることをしましょう。ラクスだって、宇宙でがんばってくれているから・・・」 『キラ・・・』 キラとラクスは、画面越しに愛しい者へと向ける視線を交わした。 次の瞬間には、キラはカガリの不自然な態度のことなど忘れてしまっていた。 「でも、それからは、どうするの?華南基地侵攻を止めると言っても・・・。 今からすぐ出港したとして、ここスカンジナビアから華南基地まで、最低2週間以上かかるわ」 「着いたらもう華南基地侵攻はとっくに始まってるだろうし、それに、燃料だって・・・アークエンジェルのミサイルや、フリーダムを動かす動力が、無くなりますよ・・・!2週間以上ぶっ続けで進み続けてすぐに参戦するには、エネルギーの供給を何処ですれば、」 マリューとノイマンが口をそろえて言う。 ここままでは華南基地侵攻を止めるための、エネルギーすら満足に得られない。 ・・・2週間すすみ続けても、華南基地侵攻の前に、エネルギーを供給できる場所・・・。 アークエンジェルにとって、それは、もう一つしかない。 「まさか・・・・!?キラ!?」 カガリがキラの方を見て、驚いて言う。 キラはそんなカガリを目で制し、クルー達の目をゆっくり、一人ずつ見つめた。 「オーブへ、行きましょう」 「キラ君・・・!」 「キラ、でも・・・」 「確かに、今はセイランが政府を乗っ取っています。でも、・・・・」 『モルゲンレーテ、ですわね?』 キラの言葉を、ラクスは引き継ぐ。 『アークエンジェルとフリーダムを、先の大戦後隠しておいた・・・・モルゲンレーテならばアークエンジェルが戻っても、セイランの方々は気づきませんわね』 「うん。僕もそう思うんだ。モルゲンレーテなら・・・」 アークエンジェルとフリーダム。 この大規模な戦艦とモビルスーツを、戦後ひそかに修理して隠していたのは、他でもない。 モルゲンレーテの倉庫だ。 あそこなら・・・。 「そうだ!!モルゲンレーテは政府と独立した組織体型だ。エリカさんなら・・・!!」 先ほどとは打って変わった表情で、ノイマンも頷く。 「じゃあ、バルトフェルドさん。モルゲンレーテに連絡をお願いします。僕たちは、連絡がとれそうにないので・・・」 『まかせてくれ。こう見えても、僕は戦後エリカ・シモンズ主任とは、仲良くさせてもらっていてね。連絡ぐらいならいくらでも』 最後に、キラは画面の中の、愛しい人を見つめる。 「ラクス・・・」 『大丈夫ですわ・・・キラ・・・。わたくしも、全力を尽くします。ですからキラ・・・、』 「・・・わかってる。ラクスも、気をつけてね」 『はい・・・』 キラはラクスから視線を戻し、真剣な表情で、ゆっくりと言った。 「オーブへ」 キラは画面上で微笑むラクスを、しっかりと自分の目に焼き付けた。 カガリは、まだ左手を右手で包み込んだままだった。 まるで、何かから、その左手に光るものを、守るように。 カガリの今の気持ちを理解できる者は、アークエンジェル、そしてエターナルには、誰一人として・・・・いなかった。 BACK TOP NEXT |