20.


『ジブラルタル基地より入伝。・・・・2人の映像、出ます』

プラントの標準時で、A.M.3:00。
アプリリウスの最高評議会。 そこで、臨時議会が開かれていた。
臨時。その上。何これ・・・?

「ジブラルタル基地より、アスラン・ザラ、出頭しました」

ルナマリアの横でアスランがはっきりと敬礼する。そんなアスランを見て、ルナマリアも慌てて敬礼をする。

「同じくルナマリア・ホーク。出頭しました」

『久しぶりだね、2人とも。よく来てくれた・・・。まあ、”来てくれた”という表現は相応しくない、かな?』

そう言う人物・・・現プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルは、ルナマリアの一直線上、議長席に座っていた。 ルナマリアとアスランはかつての上司、タリア・グラディスに言われた通りに、ジブラルタル基地のホログラム映像を介して最高評議会に出頭していたのだ。

でも・・・何なの、これ・・・?
ルナマリアは先ほど途切れてしまった思考を、再び繋げた。 そして、落ち着いて思案する。
確かに自分は、最高評議会なんて・・・そんな所に出頭したことなんて、ない。
でも。
目の前に広がる円卓にはたった数名しか着席しておらず、ちらほら席が空いているのだ。 最高評議会って・・・・たしかそれぞれのプラントの代表、全員が参加する議会民主制をとっているはずなのに。 なんでこんなに、出席者がまばらなの? それに、なんでこんな時間に・・・? しかも、私たちが出頭するのは前からわかってたはずなのに、なんで”臨時”?
膨れ上がっていく不安を必死に胸の内に収め、自分の横で事務的な報告を淡々と続けるアスランをちらりと見た。
アスランは、2年前最高評議会に出頭して機体の報告をした事があるっていってたけど・・・さすがというか、なんというか。 今までの状況報告や怪我の状態、地球軍・オーブ軍の動向云々。 アスランは詳しく、でも要点を的確に得た報告する。
やっぱり、すごいな・・・アスラン。でも、なんでだろう。 自分のすぐ横に立っているはずのアスランが、なぜだか遠く感じる。 ただアスランの能力に感心してそう思っているわけではない。 この気持ちは、・・・そうだ。 アスランが目を覚ましてから、正確に言えばアスランの、あの目を見てからずっとこんな気持ちだった。

『どうであろうと、ただ戦うだけです』

そう言った時のアスランの目。 自分は、その目を見て一瞬思ってしまった。

・・・・恐い。 こんなアスラン、知らない。

元々深い付き合いなんかじゃなかったのに、なんだかアスランが、すっごく遠くの存在になってしまったような。 目の前にいるアスランは、全く別の人間になってしまったような。 別に自分に対する態度が変わったっていうわけでもなく、打たれる前と同じように接してくれているのに。 時々見せる、その冷たい目が。 恐ろしい、憎悪にまみれたエメラルド色の目が。 そんな気持ちにさせるのだ。

「・・・ではこの件に関して、質問は?」
『・・・・無いようなので次に進ませて頂きます。・・・・議長、』
『ああ。わかった』

進行役の議員の声に、議長は一息つき、その場に立ち上がる。

『君たちにはきちんと、話さなければならないね。・・・・なぜ君たちがミネルバを解任され、こんなことろに出頭しなければならなかったか』

そう言って議長は、自分の座る円卓の頂点から、一直線上に立っているアスランの目を見る。そして、満足そうに口元を緩めた。
アスランは、そんな議長をただ、淡々と見ていた。
この時のルナマリアは、まだ議長の微笑みの、そしてアスランの何も感じないような目の意味はわからなかった。









「そうですか・・・。ではジンは、まだお帰りになっていないのですか?」
『そうだ・・・全く、あの馬鹿は何をやっているのか・・。せめて、きっちりデュランダルの隠してる物の情報を掴んでくればいいが・・・』
「大丈夫でしょう。ジンなら・・・普段のあの人の働きを、お忘れになってはいませんよね?」

そう言って、画面の向こうの部下は、仮面から、唯一見えている口をにやりと緩めた。 そんな余裕の笑みに、なぜだか日頃の怒りがあふれ出してきた。 たまらず、握った拳を机に叩きつける。

『っ、そんな事はわかっている!!お前こそきちんと働いて結果を出せ!!わかっているだろうな!?今回の任務は・・・!!!』
「もちろんです。ベルリン、でしょう」
『そうだ・・・!!あの街を、残らず焼き払え!!』
「・・・・世論は、納得しませんよ」
『うるさい!!納得するもしないも、お前とジンの働き次第だとさんざん言っただろうが!!世論など・・・!!勝ったほうについてくるものだ!! ・・・・この任務が失敗すれば、”アレ”も出来損ないだったということで、処分する』
「っ・・・・!」
『お前の艦には確か・・・、3つ、だったか?”アレ”は』
「・・・・」
『ダータネルスではやってくれたが・・・。次はない。覚えておけ』
「・・・はっ」

ステラ達エクステンデットを”アレ”、”3つ”呼ばわりか・・・。
まるでコーディネーターだな。 しかし、実際そう考えてもおかしくないのだろう、上の連中は。 コーディネーターのような戦闘能力、そして機体の操縦の正確さ。 それを、どう見てもコーディネーターに劣るナチュラルが、無理に求めて実験台にされたようなものなのだ。ステラ達、エクステンデットは・・・。
ネオは自嘲の笑みを浮かべて、消えゆく画面を睨む。

暗い部屋に光っていた画面がプツリと途切れ、あとに残ったのは・・・上司に対する不快感と自分に対する憤り、そして、

「だと言うことだ・・・ジン」
「あなたも大変だとは思っていましたが・・・。実際第三者の目で見ると、不快な事この上ないんですね」

不快感を感じさせる上司の、”表面上”忠実な部下。

「いつものことだよ・・・。君に対しても、ああなんだろ?」
「ええ・・・・」
「しかし、本当にいいのか?君がプラントから戻っている事を、ジブリールに報告しなくて」
「いろいろ理由をつければ大丈夫です。ジブリールは神経質そうに見えて、実は杜撰ですから」
「・・・・」

全く・・・。本当に良く観察しているな、こいつは。
ネオは、自分の机の横の壁に腕を組んだままもたれかかっていた、目の前の少年に向かって、呆れとも感心ともつかないため息をついた。

ジンはつい先ほどプラントからヨーロッパ経由で、地球軍第81独立機動群・・・ファントム・ペインの大佐である、ネオ・ロアノークのもとへ訪れていた。 もちろんジブリールにはプラントから帰国したことは伝えていない。 他人には漏らしてはならないものだからだ。 この密会の情報が漏れる。
イコール、 死。
ネオとジンだけではなく。 ステラ達エクステンデットを含むナチュラルすべての。 遅かれ早かれ・・・死が訪れるだろう。
しかし、神のいたずらか。 ジンがネオと会話している途中に、ジブリールからの通信。 しかし、画面のすぐ横に不快感を露わにした表情のジンがいることに、ジブリールは気づかなかった。

「それより・・・。ベルリン、ですね・・・」
「ああ」

先ほどの通信で、ジブリールの口から直接下された命令。それは・・・・ベルリンを焼くこと。 新しい機体・・・デストロイにエクステンデットを乗せて。 機体をザフトに持って行かれたステラが、おそらくデストロイに搭乗することになるであろう。

「避難勧告も・・・・あの様子だと、出す気は、ないでしょうね」
「そうだな・・・」
「くそっ・・・!!俺がもっと早く・・・!!」

自分の前で悔しそうに唇を噛むジンは、まるで自分のようだ。
実際、ほとんど同じなのだ。 この少年と自分。 過去を捨てた少年に、過去がない自分。 そんな2人が、唯一守りたい者のために捨てた未来。 もう、後戻りなどできない。

そこまで考えて、ふと3人の事が頭に浮かぶ。
3人は・・・・ステラは、スティングは、アウルは・・・。 今回の任務が失敗すれば、今度こそ処分される。 ベルリンを焼く・・・それは、かつてないほどの大量虐殺となるだろう。 しかし、わかっていながらも、やらなければステラ達は、死ぬ。 確実に、処分される。

しかし。
この任務さえ無事に乗り越えれば・・・・。 ジンと自分次第で、ステラ達を救うことが出来るかもしれない。 その計画をジンに持ちかけられた時は、あまりにも無謀な賭けに、一瞬気が遠くなったのを覚えている。 が、このままステラ達が兵器として利用され続けるのを黙って見ているよりは、はるかにマシだと思った。
・・・・どうせ過去も未来も何もない自分だ。
ステラとスティング、そしてアウル以外に、失うモノなどない。

「落ち着け、ジン。早まると、ろくなことはない。・・・・大丈夫だ。ベルリンは、確実に焼いてみせる。だから、お前は」
「わかってます。・・・・大佐も、気をつけてください」
「・・・ああ」


「・・・・大佐、」

ふと、部屋を出ようとしたジンが振り返る。

「どうした?」

しかし、ジンはすぐに立ち去ろうとせず、何か言いたげに立っている。

「あの・・・。ステラ達と、また会ってきていいですか?」

なんだ。それが言いたかったのか。
呆れてジンの表情を見ると、気まずそうに目を反らされた。 ふと、この少年の幼さに笑みがこぼれる。
たったそれだけの事を言うのに、恥ずかしがるとは。
目の前の少年は、顔の割に妙に大人びており、自分が思いもつかないような計画を立てる事ができる。
そしてジブリールの秘書としての能力も、並みの政治家につく優れた秘書とは比べ者にならないほどすばらしい。 しかし、このような若者らしい一面もあるとは。 と、同時に何とも言えない悲しさが胸に溢れてきた。 この少年も、過去あんなことに巻き込まれなければ、おそらくこんなところにいて、こんな風に、命がけで未来まで捨てなければならないようなこととは全く関係のない人生を送れただろう。 それこそ、ステラやスティングのような年頃の友達と、ささやかな幸せを日々見つけながら。

「ああ。ただし!ほどほどに、な」
「・・・わかってます」

少しいたずらに、声の調子を強めて言う。 ジンはそんなネオの態度にムスっとして生半可な返事をする。
それを最後に、ジンは部屋を後にした。







『真のオペレーション・ヴァルハラは、君たち以外に・・・ザフトの情報戦術特別科も数十名動員する。期限は公式発表しているオペレーション・ヴァルハラ・・・つまり華南基地侵攻作戦が下火になるまでだ。 2人は任務が終わり次第、すでに地球に派遣されている情報戦術特別科の代表一名とともに即刻ディゼンベルのザフト本部へ出頭。 アスラン・ザラ、出頭次第君に新しい艦を受領する。隊を結成し隊長となり、その艦の総指揮をとれ。ルナマリア・ホークはその補佐を。それまでに新造艦は完成する予定だ。 ・・・・君たちが乗る予定の機体は、先ほどジュール隊長が報告した通り。本部へ戻り次第、オペレーション・ワルキューレを実施せよ』

「「はっ」」

2人は先ほど議長の口から、そして途中で議会室に入ってきたジュール隊隊長、イザーク・ジュールから説明を受けた。
なぜルナマリアが、そしてアスランがここにいるのか。 これから自分たち2人は何をすればいいのか。 何故こんな時間に議会を開くのか、しかも少数の議員だけしか出席していないのか。
その、わけを。
中には信じがたい裏の世界と関わっている情報もあった。 が、しかし。
それは一重に、プラントの為。
ザフトの、為に。
2人に課された任務は、”真のオペレーション・ヴァルハラ”を実行し成功させること。

議長が、その場にいる全員の表情を見て、再び立ち上がる。 一瞬訪れる、静寂。


『真のオペレーション・ヴァルハラ。開始する』


その言葉は、選ばれた数名しかいない議会室に、静かにこだました。






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