23. 「そうですか。ではやはり、彼は、ダータネルスでアークエンジェルと接触した後、突然に居場所がわからなくなった、と。そういう訳ですのね・・・」 「ええ・・。その際に負った怪我を治すために、ザフトのジブラルタル基地付属病院に入院していたのは確認されていますが・・・。それからプツリと消息が掴めません。今、我々もクライン派の者を使って調べているのですが・・・」 「そうですか・・・」 クライン派が、全力をあげて取り組んでいる事。 それは、たった三つ。 ラクスは、いやエターナルという戦艦は、そのためだけに宇宙に浮いているといっても過言ではなかった。 一つ目は、デュランダル議長の真意を掴む事。 二つ目は、極秘開発している機体を完成させる事。 そして残った一つは・・・アスラン・ザラの消息を掴む事。 アスランの消息は、ジブラルタルの病院にいたのを最後に、プツリと途切れていた。 初めは、華南基地を打つミネルバに帰還したのかと思われた。 しかし、入ってきた情報から、彼はもうすでにミネルバを解任されている事がわかった。 ならば何処に。 彼は何処に。 インフィニット・ジャスティス。 クライン派が極秘開発していた機体の一つ。 無限の正義という名のその機体は、彼の為に作られた機体だ。 おそらく、彼以外の人間には操縦できない。 それほどまでに、彼のクセや特長を存分に生かすように作られた機体なのだ。 ラクスは、確信していた。 彼は必ず自分と、キラのもとへ帰ってくる。 志は同じ。ただ、彼はまた迷っているだけなのだ。 それならば自分が、2年前のように、彼に進むべき道を示すまで。 彼は・・・戻ってくる。 必ず、この機体に、乗る。 だが。 「でも・・・ラクス様。これはどう考えても、誰かが意図的に、彼の居場所を隠しているとしか考えられません」 「・・・・」 確かにそうなのだ。もう華南基地侵攻が始まってから、数日がたつ。 その間は、ザフト関係者の目も華南基地侵攻に自然と集まり、アスラン・ザラというたった一人のザフト兵を捜し出す事など、至極簡単な事に思えた。 だが、実際に彼の消息は、プラントや地球にいるクライン派の力を総動員しても、わからない。 これは、誰かが意図的に彼の居場所を誤魔化しているをしか考えられない。 そして、こんな事が可能なのは。 「デュランダル議長、でしょう」 現在のプラントの、頂点に立つ男。 デュランダル議長意外に、考えられない。 最高評議会の議長である彼ならば、たった一人の人間の居場所を隠すことなど、訳もない。 アスランはフェイス。議長直属のザフト兵ならば、なおさら。 だが。 「でも、じゃあなんで、アスラン・ザラの消息、わからないようにする必要があるんです?」 ラクスの横にいた、ダコスタが尋ねる。 「だって・・・。華南侵攻には、彼、関係してないんでしょ?ミネルバ解任されてるんだから。それなのに、なんで彼一人の居場所を」 「・・・デュランダル議長がやろうとしている事は、華南侵攻だけではないはずです」 「え?」 「華南を攻め落とし、その後に行う何か・・・。今わたくしたちが探している議長の真意・・・。アスランはそのどちらか、あるいは両方に、関係している・・・と考えるのが自然ですわね」 ラクスは、少しだけ顔を歪める。 「・・・・じゃあ、それって・・・”destiny plan”ってやつと、関係が・・・?」 「ええ・・。おそらく」 先日発見した、唯一の発見・・・”destiny plan”と書かれた紙。 次第に明らかになってきた、デュランダル議長の目的。 しかし、アスランがそれに関わっているとすれば・・・。 そのために、深く関わっているために、消息が消されているのだとすれば・・・。 「厄介な事になりましたわね・・・」 ふと、ラクスの脳裏に、2年前の情景が鮮やかに浮かぶ。 『アスランの信じて戦うものは、何ですか?』 『頂いた勲章ですか?お父様の命令ですか?』 『敵だと言うのならば、わたくしを打ちますか?』 『ザフトのアスラン・ザラ』 「大丈夫ですよ、ラクス様」 ダコスタが、ふと顔をしかめたラクスを心配して、声をかける。 「彼も、我々と志は同じです。進む道も、同じです。ただ、また迷っているだけですよ。彼は優しいですから。」 「・・・・・・」 「だから、ラクス様のもとに戻ってきて、我々と一緒に戦ってくれます」 「・・・そう、ですわね」 「ええ。だから、余計な心配なんてせずに!キラ君も心配しますよ」 「はい・・・・・・・。」 ラクスは、しかめていた顔を優しい微笑みに戻す。 しかし、その湧き上がる不安は消えなかった。 何故か二年前の、ホワイトシンフォニーでの会合が、頭から離れなかった。 あの時の彼は、迷っていた。 不安と戸惑いを抱えたまま、自分に銃を向けたアスランの姿が、ちらつく。 アスラン。 デュランダル議長の示す道。 そして、わたくしの示す道。 あなたはどちらをとるのですか? * 鳴り響く轟音。 激しく光る、赤い炎。 そして、真っ暗な空。 華南は、文字通り戦場と化していた。 オーブ軍のムラサメがまた一機、デステニーの方へ向かってくる。 シンは機体を素早く反転させ、切り込んでくるムラサメ一機、そしてその後ろに待機していた地球軍のメビウス二機を打ち落とした。 どうやら、オーブも戦闘に介入するようだ。 シンは機体を反転させながら、自分の見解は正しかったと確信した。 華南侵攻作戦・・・オペレーション・ヴァルハラが開始されて、数日。 その間、オーブ軍の機体は一機も見られなかった。 しかし数日たった今、やっと戦闘に参戦しだしたというわけだ。 ただ、シンはダータネルスで突如現れたアークエンジェル、そしてオーブに対する怒りなど、もう感じはしなかった。 感じたのは、もうほとんど・・・”呆れ”に近い感情だけだった。 やっぱりか。 やっぱり卑怯だ、お前らオーブは。 あんな国のために命を投げ出すやつの気が知れない。 ため息をつく。 ああ、また一機。今度は・・・アストレイか。 漆黒の空を裂いて、デステニーの方に向かってくる。 いや、三機・・・六機だ。 なんでお前達が人間を殺す権利がある。 邪魔だ。 さ っ さ と 落 ち ろ 。 一瞬の轟音。 次の瞬間画面に写ったのは、大破して燃え落ちていく六機の機体。 オーブのアストレイだ。 デステニーがひらりと画面上に写る。 どうやら、デステニーが一瞬のうちに破壊したようだ。 画面上の黒い固まりは、ゆっくりと燃え落ちていく。 燃えていく。 落ちていく。 ふと、その固まりの中から落ちていく物体が見えた。 ブリッジの誰もが、機体の破片かと思った。 ・・・人間だった。 恐怖に歪んだ顔なのか、それとも顔がなかったのか。 それすら確認できないまま、だが人間が落ちていく様は、ミネルバの画面の角に確実に写っていた。スローモーションのように、ゆっくりと落ちていった。 燃えていく。 落ちていく。 死んでゆく。 一瞬静寂に包まれたブリッジだったが、すぐにまた別のアラートが鳴り響く。 「左舷前方より、反応あり!!またアストレイです!!」 「ジャミング弾発射!!」 戦闘はまだ続く。 先ほどからこのような瞬間ばかり。 デステニーが、そしてレジェンドが、敵の機体を次々と落としていく。 ミネルバまで、ほとんど近づけないまま破壊されていく。 残酷なまでの二機の姿は、まるで神のように見えた。 生きるべき者、死すべき者。 両者を判別している神のように。 しかし、なぜかメイリンはその二機の機体に対して、恐怖しか感じられなかった。 この機体に、レイが、そしてシンが乗っているなんて、考えられなかった。 あの二人が、自分の目の前であれだけの人間を殺しているかと思うと・・・。 再び激しい轟音がブリッジを揺らす。 また一機落とされた。 今度はレジェンドだ。 メイリンは、叫びだしたい気持ちを必死に押さえて、他の艦との通信を保っていた。 突然、それまで鳴らなかったアラートが鳴った。 基地との通信回線だ。 「もうなんなの、この忙しい時に!!」 タリアがそう言うと同時にメイリンは席を立ち、素早くアラートのなる通信機器のスイッチをオンにした。 『こち___ンタリア基地__!!応答__。こちらカーペンタリア基地!!ミネルバ、応答せよ!』 「こちらミネルバ!只今本艦は戦闘中・・『グラディス!大変だ!!戦艦・・・・アンノウンだ!そちらに向かっている!!』 カーペンタリアからの通信に、ミネルバの中の誰もが驚愕する。 ただでさえ混乱しているこの戦場に、アンノウンの戦艦!? みな背筋が、凍り付いた。 まさか・・・・!! 『・・・いや、違う!あれは・・・アークエンジェルだ!!』 その瞬間ミネルバのブリッジにいた誰もが、思わず怒りの声をあげた。 「まただ。また介入される・・!!」 「ダータネルスで、あれだけ・・・あれだけやってるのに!?」 「くっそぉ!!」 「エイブスさん・・・ザラ隊長・・・!!」 これ以上余計な正義感で勝手に介入されては、たまらない・・・・!! アスラン、ルナマリア、エイブス・・・! アスランの冷たい瞳、ルナマリアの涙、そして未だに意識が戻らないエイブスの、冷たい顔・・・そして、死んでいったクルー達の、黒く焼けただれた顔・・・。 それぞれの顔が、クルー達の脳裏をよぎる。 しかしタリアは、焦る感情を必死に押し殺し冷静に状況を見る。 今ブリッジは混乱と憤りに溢れている。 アークエンジェルの介入は、どうしても避けねばならない。 しかし、今すべき事は、自分が艦長としてやるべき事は・・・・!! 「みんな冷静になりなさい!!私たちブリッジがこんな状態でどうするの!?」 艦長の凛とした声がブリッジにこだまする。 タリアの一喝にクルー達は自分を取り戻し、怒りを押し殺す。 それを素早く確認して、タリアは冷静に事を判断する。 ・・・アークエンジェル自体は、そこまで戦闘力は強くない。 ミネルバと同等か、友軍があるだけこちらのほうが有利。 問題はフリーダムだ。 アークエンジェルは、あの機体のおかげで今まで持ち堪えてきたと言っても過言ではない。 ・・・・シンもレイも、確かに戦闘力としては抜群。 新型の機体に乗り始めてから、更に腕は上がったように思える。 しかし、あのフリーダムには、おそらくかなわない。 操縦者の技術、そしてなにより、動力の核エネルギー。 あの機体のエネルギーは尽きることがない。 どうすればいい・・・!? そこへ、また別のアラートがけたましく鳴り響く。 『__長!艦長!?メイリ__!!』 シンだ。 先ほどの轟音を最後に一端途切れていたシンとの回線が、開いた。 「どうしたの、シン!?」 『なんか、あっちの方に・・・すっごいでかい黒い固まりがあるんだけど・・・・』 「黒い、固まり・・・って、何だ?」 アーサーは、恐る恐る聞き返す。 『いやでも・・・あれ・・・は・・・、え・・・・?』 シンがそうつぶやくのとほぼ同時に、メイリンが叫ぶ。 「光学映像、出ます!!」 画面が切り替わる。 ブリッジにいた誰もがその画面に釘付けになる。 現れたのは、黒い固まり。 動いている巨神だった。 まさかあれが機体など、誰が思うだろうか。 大きさは、通常の機体の・・・数十倍だ。 でも確かに機体だった。 形は。 あれが・・・・機体? 機体ならば・・・まさか!! 「マリク!!回避して!!!!」 タリアがそう叫ぶのとほぼ同時に、画面上の巨大な固まりがいきなり光を発した。 再び耳をつんざくような轟音が鳴り響く。 次の瞬間、ミネルバの画面は真っ白い光で包まれた。 一瞬の閃光の後、現れたのは・・・。 真っ黒な地面、真っ黒な空、真っ赤な、炎。 そして浮かび上がる・・・・巨大な黒い機体。 そう。至極簡単な事に、タリア以外のクルーは気がつかなかった。 あれは敵のモビルスーツ。 ならばそれから発せられた光は、我々ザフト軍を焼き尽くす、死の光以外の何物でもないという事に。 タリアの叫びにマリクが瞬時に反応しなければ、今頃ミネルバは焼け落ちていただろう。 クルーの背中を、冷たい汗が撫でる。 改めて画面を見てみれば、辺りは黒い平面だった。 デステニーやレジェンドが先ほど落とした機体もない。 残ったのは、 焦土。 腐敗臭。 そして、黒い機体だけ。 ビルは?人は?落ちた機体は? 何処へ消えた? タリアは、一瞬にして本物の地獄を見せつけられた気がした。 BACK TOP NEXT |