24.


「なんだよ、あれ・・・」
『あれは機体・・・地球軍のモビルスーツの一つだ』
シンが一瞬のうちに華南の一部分を灰にした機体に驚いていると、レイが忠告する。
「あ、うん・・・わかってるけど、でも、今の・・・」
街を焼き尽くした、巨大な黒い機体。
シンはその機体を目にしたと同時に感じた一瞬の恐怖の後、疑問を抱かずにはいられなかった。
華南基地のある東アジア共和国は、地球軍に組みしているはずだ。
それなのに、自分の陣営の基地周辺を、自分で焼き払う・・なんて。
自爆行為じゃないか?

『シン、普通に考えるな』
「え・・・・?」
未だ疑問を隠せずにいるシンとは対照的に、レイは普段となんら変わらない声で淡々と答える。
『あれはおそらく先日情報が入った・・・ベルリンを焼き払った機体だ』
「なんだって!?」
『ベルリンも元はと言えば地球軍の土地だった。つまり、地球軍の人間は自分達の土地を焼いても気にしてないという事だ』
「そんな・・・でも、こんな自分で自分の国を焼くようなバカな事・・」
『こんなバカな事をするはずがないというのは、こちら側の理屈だ。違う価値観と常識を持っている人間には通用しない。・・・つまり、戦争に負けるくらいなら、たった一つの錆びれた基地など捨ててもいいと思っているんだろう。華南の土地と人間は・・・いわば、捨て駒だ』
「・・・そんな!!」

茶褐色の粉塵と煙を噴き上げながら、なおも黒い地面を進んでくる、地球軍の巨大な機体。
その機体のコックピット辺りを眺めながら、シンは絶望と同時に怒りがふつふつと自分の内からこみ上げてくるのを感じた。 戦争・・・は、そういう物だと、頭では理解していたものの、・・・やはり許せない。
勝つためなら自分の国の土地を焼いても、国民を殺してもいいのか!?
国のトップに立つ奴らが、そんなことしていいのか!?
それが許されることなのか!? 許していいはずないじゃないか!!
・・・・いや、許される。
オーブが、2年前自国の国民を死に追いやったように。
『シン、とにかく今はあの機体を止めるぞ!』
2年前に抱いたあの感情が、また自分の中でわき上がってくる。
許さない。 地球軍も、オーブも、アスハも、そしてフリーダムも。 俺が倒す。・・・倒す!!!

「・・・・ああ」

シンは操縦桿を握り直すと、一気に機体を前方へ旋回させた。




ミネルバは再び喧噪に包まれていた。
「第一甲板、被弾!!」
「救護班を居住区に向かわせて!!」
「艦首砲は大丈夫なんだろうな!?」
そしてブリッジは、先ほど受けた被害確認に追われていた。
幸いにも艦は落ちず、ブリッジはもちろん、艦首砲・手砲・副手砲ともに無事だった。
しかし爆発と共に発生した激しい突風により、ミネルバは押し戻され、その際に居住区と第一甲板が被害を受けたのだ。
しかし。 ミネルバのブリッジが先ほどよりも更に緊迫し、次々と怒号が叫ばれているのは、全く別の理由があった。 喧噪の中程なくして、恐怖を告げる特徴的な通信音が、けたましく鳴り響く。 まるで自分の存在感を示すかのように鳴り響くその音は、ブリッジのクルー全員の鼓膜を激しく揺らす。
アーサーは腹に響くその音を耳に、迫り来る瞬間に怯えていた。
もう少し、あと少しでもいいから、・・・・後に来てほしかった。
いや、いっそのこと誰かが、今自分が聞いたのは幻聴だと、気のせいだと言ってくれればよかった。
先ほどもそうしたように、メイリンが席を立ち通信機のスイッチをオンにする。

『カーペンタリアから入電!!』

その通信を耳にした瞬間、ブリッジの誰もが動作を止めた。
腹の底からわき上がる恐怖を必死に押さえようとするかのように。
一瞬の静寂に包まれるブリッジで、通信に答えるタリアの静かな声だけが、奇妙に響き渡る。

「こちらミネルバ艦長、タリア・グラディス」
『本部からの命令だ!!_______を打て!!』
「・・・了解」


「やはり、我々がやらなければならないようね・・・」


華南進行にミネルバが組み込まれた理由が、やっとわかった。
彼らが来る事を見越して、わざと私たちを向かわせたのね。
ジブラルタルからカーペンタリアまで、わざわざ引き返せと言ったのも、この長い旅も・・・・全ては、この任務のために。
あなたの考えそうな事ね、ギルバート。
自嘲の笑いを少しだけその顔に浮かべ、タリアが一息つく。
ブリッジ中の緊迫した視線が、タリアに注がれる。

「メイリン、あの黒い機体の方へ向かったデステニーとレジェンドを呼び戻して」
「は、はい!!」
時は来た。 タリアはゆっくりと、艦長席にある通信機能のボタンを押した。




「センサーに反応あり!!・・・いや、これは・・・!!」
前方にザフトの戦艦を、センサーで捕らえた瞬間にセンサーが反応しなくなった。
ワケが解らない。・・・・いや、もしかしたら・・・。
やられた!!
「ジャミング弾です!!」
チャンドラが叫ぶと同時に、艦内に衝撃が走る。
目の前を前進していた敵艦・・・・ミネルバは、いきなりアークエンジェルのセンサーを惑わすようなジャミング弾をこちらに発した。

なぜ。
マリューは、いやその他のクルーも、疑問を抱かずにはいわれなかった。
なぜミネルバがいきなりアークエンジェルを打ってくる!?
確かに自分たちはダータネルスで接触した。しかし、今何故自分たちが打たれる必要がある?
ただ、あの黒い機体を止めようとして向かっているだけなのに?
いきなり通信機が鳴り響く。国際救難チャンネルだ。
『こ__ミネルバ!アークエンジェル、返答せよ』
その声は、聞いた事があった。
確か・・・数ヶ月前に、オーブで。
まさか、いややはり。
疑問と確信がない交ぜになった感情を押し殺し、マリューは通信機のボタンを押した。
「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです」
一瞬の沈黙ののち、通信ごしの相手が答える。
『こちらミネルバ艦長、タリア・グラディスです』
・・・やはり、グラディス艦長・・・・!!
マリューは、画面上の人物・・・・タリア・グラディスを見つめた。
オーブで見たそのままの凛とした、そして落ち着いた顔立ち。
・・・・まるで、焦っている自分達の感情を見透かしたかのようだ。
ふと、タリアが声を発する。 その声もやはり落ち着き払っていた。
しかしその内容は、アークエンジェルのクルーにとって、落ち着き払って言われるべき言葉では、・・・なかった。


『今すぐに、地球軍の戦艦”アークエンジェル”と、我々ザフト軍の機体”フリーダム”を返還し、テロリストのリーダーであるオーブの元国家元首・カガリ・ユラ・アスハに投降していただきたい』


美しいその顔からは微塵も感じられない、残酷で理不尽な要求。
いきなり告げられた理不尽且つ残忍なその要求に、マリューは思わず声をあげた。
「そんな・・・!!」
『こちらの要求を飲んで頂けるのであれば、貴艦のクルーの命を保証します』
「待ってください!!」
『待て・・・?待ったならば、あなた方は地球軍から強奪した戦艦”アークエンジェル”と我がザフト軍から強奪した”フリーダム”を放棄するとでも言うのですか?貴艦のリーダーを引き渡すのですか?・・・それならば待ちましょう』
焦るマリューに対し、画面上の人物は腕を組みながら落ち着いて答える。 いや、落ち着き払った表情の中に、先ほどは感じなかった少しの怒りが含まれていた。
しかし。
「そんな事・・・・!」
そんな事はできない。
ザフトと敵対しているオーブの元国家元首であるカガリを、プラントの最高評議会の議長であるデュランダルに引き渡すなど・・・! そして、ずば抜けた戦闘力を持つ戦艦と機体をザフトに渡すとなれば・・・それを今後の戦闘に使用するかもしれない。 そうなれば、また世界は地獄へ堕ちる。 世界は再び二分化され、途切れることのない憎しみの輪を増幅させる。 その被害を真っ先に被るのが他ならぬオーブである事は、目に見えている。 希望はないのだ。 マリューは、必死に動揺を隠して答える。 今、そんな事はできない。
「貴艦の申し入れに感謝します。しかし、それはできません。我々にはまだやるべき事があります」
『・・・・やるべき事とは?』
「地球軍のあの黒い機体を止め、新たな犠牲者を出さないことです」
『・・・・・”新たな犠牲者を出さない”?』
「ええ。あなた方も目的は同じでしょう?それなのに・・・何故、我々があなた方ミネルバに打たれなければならないのですか?」

そうなのだ。全く、何故いきなり我々が打たれなければならないのか。
アークエンジェルのクルー達は、どうしてもそれがわからなかった。
しかしその返答に、タリアは呆れたような短いため息をついた。
次の瞬間、画面の向こうで、何やら言い合う言葉が聞こえてきた。

『艦長!!もう我慢できません!!』
『落ち着きなさい!!』
『だって・・・!!新たな犠牲者を出さないためだと!?』
『ふざけるのもたいがいにしろ!!』
『いい加減に落ち着きなさい!!!今は通信中よ!!』
タリアのその一言に画面上からの喧噪は途切れる。
会話の内容にアークエンジェルのクルー達は一瞬、不快感を覚える。が、どうして非難されなければならないのかが、わからない。
『すみません。こちらの不備です』
「いえ・・・」
『・・・・・・・話が途切れましたが、本艦が貴艦に攻撃する理由がわからないとおっしゃるのならば・・・とんだ茶番よ』
「な・・・!?」
『貴艦はラクス・クラインの臨時演説をご存じないのですか?』
「・・・・それは、」
『貴艦は・・・戦場を混乱させ、無駄に犠牲を出す強奪者・・・テロリストだ、と。許さないと』
確かにそうだ。
先日行われた”偽の”ラクス・クラインの演説によれば・・・アークエンジェル及びフリーダムは、”戦場を混乱させるだけのテロリスト”。
その演説は、アークエンジェルの中でも聞いた。
ただ・・・ラクス・クラインのその演説だけで、なぜ打たれなければならない?
『”プラントにいる”彼女の力は大きいのです。あなた方もご存じでしょう?彼女は今は亡きシーゲル・クライン元最高評議会議長の娘ですもの』
しかし、この人物は気づいていない。 彼女が偽者であるという事に。
アークエンジェルのクルーにとって、画面上の人物は哀れにも、偽者の意見に踊らされている人間に見えた。 しかし、クルー達は一抹の不安を感じる。
画面上の人物は、・・・どう見てもただ盲目的に、偽のラクスを信じているようには見えない。
いや、実際は騙されているのだ。それは今のこの人物の発言からわかる。偽のラクスクラインの言葉を鵜呑みにしているのだから。
でも・・・。いやしかし、画面上の女性は。 もうすでに・・・・プラントにいるラクスが偽者だと、気づいているかのような落ち着きぶり。
なんだ・・・?

クルー達の視線の上の人物は、なおも続ける。
『そして・・・貴艦はクレタ沖の戦闘に介入し、本艦のクルーを数名殺しています。怪我人も多数でました。それなのに、今になってまだ”わからない”とおっしゃるのですか?あなた方は』
「・・・・」
しかし・・・!!
「それはあくまで偶然に出てしまった犠牲であり、我々は・・・」
『要求は受け入れられないようですね』
「・・・っ、」
焦るクルー達をよそに、またも残酷な言葉が降り注いだ。



『只今を以て、本艦は貴艦撃墜を開始します』



そこで通信は、一方的に途絶えた。







BACK TOP NEXT