34.


「なんだこれはっ・・・!!」

時は少しだけ遡る。
デュランダル議長が全世界の主要都市のメディアをジャックし、大演説を行っていた最中。
地球ではジブリールが、彼の顔を忌々しく睨みつけていた。

『そして、つねに敵を作り上げ、つねに世界に戦争をもたらそうとする軍需産業複合体、死の商人、ロゴス。彼らこそ、われらの真の敵です!』

次の瞬間、画面に現れる8人の顔。ロゴスメンバーの顔だ。

『ジブリール、まずいぞ!』
『一体これは・・・・、』

ブツっという嫌な音を立てて、インターフォンの回線は閉じた。
いや、“強制的に切られた”のか。
ジブリールは、インターフォンを握り締めたまま呆然としていた。
デュランダル、あの男は堂々と我々に対する宣戦布告を行った。それも、ご丁寧にロゴスメンバーの写真を全世界の一般市民に公開して。
ふと、ジブリールは首をかしげる。何か違和感を覚えるのだ・・・・・この画面に。
なんだ?画面を見上げ、目を細める。
そしてある事実に気づく。

「足りない・・・・っ足りないじゃないか!」

そう。画面上に映った写真は、ジブリールを含めたロゴスメンバー“8人”のもの。
だがロゴスは“9人”で構成されていた。
そこに映し出されていない人物は誰だ、と思った瞬間、ジブリールの握っていたインターフォンは、するりと滑り落ちた。


「ベルカ・・・・!」


ベルカ・ルーベンス。
ロゴスを構成するメンバーのひとりであり、大西洋連邦の諜報機関のトップに立つ女。

 

「お前、・・・・俺をやつらに売ったのか・・・・!!!!」



ジブリールがそう思うのも無理はない。
なぜなら、彼女の顔だけが、画面上に映っていなかったのだから。





  *




同じとき。宇宙でも、ジブリールと同様に、画面上のデュランダルを睨み付けている者達がいた。
しかし彼らの大半は、ジブリールを含めたロゴスメンバーの顔が公開されたことに動揺しているのでも、画面上の人物が発する内容に激怒しているわけではなかった。
「内容」よりも、彼らにとってその「人物」が我が物顔で「平和を訴える」ことが赦せなかったのだ。

『そして、カガリ・ユラ・アスハ率いるテロリスト達。彼らもまた、平和を奪おうとする行為を行い、被害を拡大させています。そんな彼らに言いたい!』
『もし、戦う意思がないのなら、これ以上被害を拡大したくないと、少しでも望むなら!我々と手を取りましょう!いたずらに戦況を拡大せず、共に戦いましょう!』
『バカなことを言っているのは承知です。ですが、我々は彼らを打ちたくないのです・・・!これ以上、無駄な戦闘を行いたくはありません・・・!!』

当然だった。なぜなら本物のラクス・クラインは彼らの目の前にいる。
ブリッジで、画面に映る「ラクス・クライン」を険しい表情で見つめている。

『よって我々は、世界の敵、ロゴスを滅ぼし、』

そして最後に再びデュランダルのアップ。


『テロリスト達との和平の道を模索することを、ここに宣言いたします!』


一瞬の沈黙。次の瞬間、激しい動揺がエターナル内にこだまする。

「なんだよ、それっ!」
「白々しい・・・・!あれだけ、華南でアークエンジェルを打たせておきながらっ!」

クルーが動揺する中、バルトフェルドは一人、鋭い視線を画面に向けていた。
「こりゃあやばいぞ。思ったより時間が残されていないみたいだな。」
「え、それどういう・・・」というダコスタに、バルトフェルドは「ザフトに賛同する大国が地球上に二つできちまったんだ。当然だろう?」と言った。

「東アジア共和国、それに赤道連合だよ。」
「・・・・・って、え!?それって華南侵攻のっ!?」

動揺するダコスタと同じく、意味を理解したクルー達の顔も、伝染するように青ざめていく。
バルトフェルドは深刻な面持ちで「そうだ。」と頷いた。

東アジア共和国と赤道連合。そのどちらも、ザフトに、いやデュランダル側の勢力になる。
赤道連合は、華南侵攻・・・・つまり、オペレーション・ヴァルハラの際に手を貸したザフト側の援護に尽力する。
東アジア共和国は、今やザフトの勢力下にある。その上。

「ロゴスが影で操っているといわれる大西洋連邦は、ザフトが華南を攻めたときに援軍をよこさなかった。一機もな。捨て駒のように扱ってしまったんだ。十を救うために一を犠牲にする精神で以って。・・・・これが意味することが、わかるか。」
「東アジア共和国は、大西洋連邦に快く思っていない。むしろ・・・。」
「そう。“地球連合”として同盟を結んでいるにも関わらず、援軍にMS一機さえよこさない。やっとよこしたと思ったら、あのバケモノみたいなMSで一般市民を大虐殺。大西洋連邦に対する怒りは・・・・一般市民だけじゃない。東アジア共和国の軍部の連中にも広がってる。」

助けてくれない同盟国より、助けてくれた敵国。
東アジア共和国は必ずザフト側につく。

「そうなれば、」と引き継いだラクスが答える。


「アイスランドにある連合本部のヘブンズベースが陥落するのは、時間の問題だと。・・・そういうことですわ。」


「そんな・・・っ、」と、恐怖の色を浮かべたダコスタは、乾いた口を必死に動かす。

「じゃあ、デュランダル議長は、赤道連合の援護をするって言ったときから、こうなることを計算してたってこと、ですか・・・・。」

最後のほうは、か細い声になっていた。
だがその不安を断ち切るように、「ですが、ただひとつ。」というラクスの声がブリッジに響いた。
クルーの意識は、その澄んだ声に引き寄せられる。

「わかったことがあります。デュランダル議長は、新たな秩序を作ろうとしているのではないでしょうか。」
「それって、”destiny plan”っていうやつですか?」
「ええ。地球とプラント、両陣営を一つにまとめた、新たな秩序です。」

バルトフェルドは、その言葉にいかがわしさを感じた。
たった一つの基準にそって、全人類が行動し、生命をつなぐ。
そこには、争いや憎しみ、恐怖といった負の感情は生まれないだろう。
だが、それは本当の平和と呼べるものなのか?

「今までの争いは、全てそのための土台作りでしかないのかもしれません。」

ザフトが、赤道連合に手を貸したこと。
東アジア連合の華南基地を侵略・制圧し傘下に組み入れたこと。
それらは全て、初めから仕組まれた土台・・・か。
そこまで考えて、バルトフェルドは息をついた。

デュランダルがここまで用意周到に戦局を進めていたとは、思いもしなかった。
何千、何百という人間が命を落とし、同じ数だけの人間が悲しみと怒りに我を失う。
その先にある怒りの捌け口をも用意し、自分に不利益なものは自分の手を汚さず潰す。
では、その先は?と考えて、バルトフェルドは唾を飲む。
偽りの平和。新しい秩序。それらを造る、世界を統べる創造主となるつもりか。

「マリューさん。」

ラクスの声でようやく、バルトフェルドは意識を戻した。
末恐ろしさに身震いしながら、振り切るように頭を振った。

「アークエンジェルは無事なのですか?」
『ええ、なんとかね。今はオーブのモルゲンレーテにかくまってもらってるわ。』

ラクスは回線を開き、オーブのアークエンジェルとコンタクトをとっていた。
画面上のマリューは、顔を顰めて返答する。

『だけど、ミネルバと、それに乗っていた新型のモビルスーツ二機が強くて。レジェンドっていう名前の機体がフリーダムに組み付いて、自爆装置を押したらしいの。』
「自爆装置っ!?」
驚愕するクルーは色めき立った声をあげる。

「では、キラはっ!キラは、無事なのですか!?」

必死に訴えるラクスに、画面上のマリューは『大丈夫。キラ君は間一髪で脱出できたわ。』と微笑む。

『彼は大丈夫、でも・・・・その。』
「でも?」
『フリーダムは爆発に巻き込まれて大破。修理にかなりの時間が必要よ。』

一同は絶望した。あの、無敵の強さを誇ったフリーダムが大破するなんて。
フリーダムは彼らの希望そのものだった。無意識のうちに、「フリーダムは敵なし」という考えがどこかにあったのだろう。それはもちろん、マリューを含めたアークエンジェル、そしてオーブ軍のみなが思っていたことだ。
押し黙るマリューに、ラクスははっきりと言った。


「ヘブンズベースが落ちたら・・・次は、オーブです。」


ラクスの一言に、ブリッジにいるエターナルのクルーは息を呑んだ。
ついに、自分達の役目が回ってきた。


「ストライク・フリーダム。キラに、新たな剣を与えるときが来たようですわね。」


ラクス・クラインは決意を固めた瞳で言った。


「今から、例の二機をアークエンジェルに向けて射出します。」






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