4.


プラントでは大混乱が起きていた。
オーブのユニウス条約違反がプラント国営テレビにリークされたためだ。

裏切りだ、ナチュラルの裏切りだ。
やっぱりナチュラルなんて信用ならない。
地球の奴らには今度こそ制裁を。

そんな声が、街頭に惑う人々や、テレビの中の批評家、家庭の中から声高に、次々に叫ばれた。
「ナチュラルどもめ・・・」
「オーブなんて口だけなんだよ。あの、モルゲンレーテとかいう国営の軍事企業からして怪しかった!」
「いや、我々プラントは先の大戦で多くのオーブからの難民を・・」
「核ですって!?所詮オーブも地球軍と同じよ!!」
暴徒と化した人々は路頭で叫び、やり場のない怒りを増幅させる。
・・・・・止まらない。
時間帯も、悪かった。 その放送が流れたのは13:00。
多くの人々が昼食を取るために休息をとる時間。 その時間帯にテレビをつけている家庭は、職場は、レストランは、多すぎた。 ミネルバを打つ蒼い機体、そしてその蒼い機体に落とされる赤い機体の映像。 その映像はたちどころに市民の目に入ってきた。 1時間もすれば大混乱が起きた。 街で、最高評議会で、ザフトで・・・・。

そして、現在の時は15:00。
街頭が、最高評議会が、プラント中が注目する中、ラクス・クラインの臨時演説が始まった。

『みなさん。私は、ラクス・クラインです』

街頭で声高にナチュラル、オーブ批判を叫ぶ人々は一斉に歓声をあげる。”ラクス・クライン”は怒り狂う人々に、熱狂とともに迎えられた。

『みなさん、憤る気持ちは、私も同じです』

しかしそこには、2年ぶりに現れた時のような優しい面影は微塵もなかった。
いつもより怒りのこもった、少し低い声のラクス・クラインの演説に、人々は息を飲む。 そう、テレビの中で演説しているのは・・・穏和で美しい”ラクス・クライン”ではなかった。

『何故こんな事になるのです!!なぜオーブが条約違反など侵して許されるのです!!のうのうと平和をむさぼり、先の大戦の際にはコロニーで地球軍の戦闘兵器を作り、中立を裏切ったオーブが!!そして、オーブを追われ、祖国を失い、帰る場所も行く当てもなくなってしまった多くの難民を出したあの国は、なぜ許されるのですか!!!』

人々は唖然としてその演説に聞き入る。 議員たちは内心ヒヤヒヤしながらその演説に耳をすます。 そう、彼女の影響力は大きい。 下手なことを言われては・・・・怒り狂う市民をよけいに煽るだけになる。 そうなる前に・・・・演説をやめさせなくては。


『そして・・・』

・・・なんで?

『何故!』


ミーアが、その事実を知ったのはプラントに到着して、すぐだった。
最後にアスランと会った時の事が、鮮明によみがえる。
アスランは・・・何か悩んでて、辛そうで。 初めて会ったときからそう。いつも。 でもそんなこと他人に言うような人じゃないって、なんとなくわかってたから。 アスランはそんな人だから。 アスランは、・・・でも。 でも元気だったのよ。 それなのに・・・・なんでなのよ?



『何故アスランが打たれなければならないのです!!!!』



静寂が、プラントを包んだ。
街頭で、議会で、軍艦で。
市民も、議員も、軍人も。
その映像を見ているすべての人々が、唖然とした。

1つは、アスラン・ザラが打たれたことに。
そしてもう1つは、・・・・・”ラクス・クライン”が、泣いていたことに。
人々は混乱した。言葉を発することもなく。

あの、いつも穏和でほほえむ、優しい彼女が泣いている。
なぜ?
あのザラ議長の息子のアスラン・ザラが打たれたから。
ならばなぜ、アスラン・ザラが打たれる?
彼は今もザフトに?
なぜ。


『アスラン・ザラは皆さんのご存じの通り、前最高評議会議長、パトリック・ザラのご子息です。そして、先の大戦で我々を救ったプラントの英雄です。 アスランは数ヶ月前から議長の意向でザフトに復隊しています。 先の大戦のような事が起こることを止めるために。 確かに、アスランが先の大戦の際にザフトを離反したこともあり、復隊に対して疑問をもつ方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それも元はと言えば我々を、プラントを守るためでしょう?戦争を止めるためでしょう?そのために命を賭けて、実の父であるザラ議長を裏切ってでも我々プラントのために尽くした結果でしょう!? ・・・その彼が、また先の大戦のようにならないために、我々のためにザフトに復隊したことをとがめる権利は誰にもありません!』

もはや、そこには優しい穏やかな、平和を唱える”ラクス・クライン”はいなかった。
画面の中にいたのは、ただ、恋人を打たれて涙を流している”少女”。
どこにでもいる、普通の”少女”。
しかしその”少女”の言葉は、人々の胸を強く打った。
いままで”ラクス・クライン”が画面の中で、音声で、平和を唱えた中の、どの発言よりも。

『そして、みなさんがご覧になった映像・・・あの、蒼い機体がフリーダム。前大戦の際に奪取された、核エネルギー搭載の機体。そしてその蒼い機体に打たれた赤い機体が、アスランの乗っていた機体です。 つまり、フリーダムというユニウス条約違反の機体がアスランを打ったのです!!殺そうとしたのです!!!こんなことが許されるはずがありません!!! あんなやつらにアスランを打っていい権利なんてない!!!!』

必死に涙をぽろぽろ流しながら、”少女”は訴える。
確かに画面の中には”ラクス・クライン”はいないかもしれない。
しかし、その”少女”はいた。
大切な人を殺された悲しみ。
大切な人を傷つけられた怒り。
それらを感じる、”少女”はいた。
人々は、画面の中にいるのは”ラクス・クライン”ではないと薄々感じていた。
なぜなら、こんな”ラクス・クライン”がいるはずがないと解っていたからだ。
優しく微笑み平和を静かに訴えるどころか、ただ一人のために涙を流し声を荒げる”ラクス・クライン”などいるはずがない。
しかしそれでも、人々はその”少女”と自分の姿を重ねずにはいられなかった。
その”少女”の言葉に胸を打たれ、涙した者もいた。
ただ怒りをぶつけるだけだった者も、オーブとナチュラルを批判していた者も、黙ってうつむいた。


『私は、オーブの元国家元首率いるフリーダム、及びアークエンジェルのテロリスト達を決して許しません!!!』


その一言を最後に、”ラクス・クライン”の臨時演説は終わった。





『そうか。グラディスが発言をためらっていたのは・・・・打たれて重傷を負っている者がアスラン・ザラだったから、か』
『しかし、よりによってフリーダムに打たれたのがあの”アスラン・ザラ”とはな・・・』
『やっかいな事になりましたね』
『世論は・・・このまま黙っちゃいないでしょうな』
『・・・・なぜそんな重要な事を真っ先に報告しなかったのか?』
彼を一介の兵士として、他の隊員と平等に報告しようとしました。
心の中でそう叫んでみたものの、行き場のない感情の矛先は見つからず、ただタリアを虚しくさせるだけだった。
しかしどうやら、議員達にとってアスラン・ザラは一介の兵士では、ないらしい。 彼らの目は、すでに先を見ていた。アスラン・ザラ、彼の行為いかんによって影響を及ぼされる者たちのほうへ。
そう、例えば・・・・ザラ派。
戦後派手な行為を押さえていたザラ派が、これをきっかけに過激な活動を行う可能性がある。 それこそ、ユニウスセブンを落とそうとしたテロリストのように。
「はぁ・・・・申し訳ありませんでした」
タリアはちらっと議長を睨む。 しかし返ってきたのは、あの不適な笑み。
『いや、いいんだ艦長。私が聞いたのだから。 しかし、・・・ラクス・クラインが何故この事実を知っていたのか・・』
『・・・・・わかりませんな』
『全く・・・ラクス・クラインもこんな演説を行うとは・・・』
『何を考えているのか』
タリアは、ため息をついた。
ここにいる議員達もあのラクス・クラインの演説を聴いたというのに。 彼女が政治云々を考えて演説したのではないことぐらい、あの涙をみれば解るではないか。 それなのに、何のために・・・・とは。 どうやらアスランと同じように、議員達はあの”少女”のことを政治を動かす一要因としか見ていないようだ。
しかし、それが政治家ではないか。
何を呆れている。しっかりしろ。
軍の中で位が上がればあがるほど軍と政治との繋がりがはっきりと見えるようになってくる。 このような場面で。
そう、このような事は何度もあったではないか。 そして・・・。

あなたもそうなのよね・・・・。
ギルバート。


『グラディス、もう下がってよし』
「はっ」


その報告の後タリアが、シンの軍規違反行為の報告を受けたのは、ルナマリアの意識が戻ったとの報告を受けた少し後だった。





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