5.


「これは・・・・」

ここは、アークエンジェルの中。
今、アークエンジェルは数日前、戦闘が起こった海の深海に潜んでいる。 外の外気から完全に遮断された世界。温泉やたくさんのメニューのそろう食堂など、普通の戦艦よりも豪華・・・・といえば豪華な設備。 しかしそんな施設もお構いなしに、この船の船員達・・・・特にブリッジで先ほど入って来たこの映像を眺めている者達は、唖然とした表情を画面に向けている。
そう、先ほど入ってきた映像とは・・・。
「”ラクス・クライン”、ね・・・・」
「ここまでやられたら・・・・プラントだけじゃない、地球軍も我々を打ちに来るでしょうね・・・」
沈痛な表情で、この船の艦長・・・マリュー・ラミアスは言葉を紡いだ。
そう、先日のザフト・地球軍及びオーブ艦隊との戦闘。 まさかちょうどミネルバを打っているところと・・・・赤い機体を落とすところをプラントでマスコミにリークされるとは。 そして、情報の放映と共に立て続けで行われた”ラクス・クライン”の臨時演説。これはもう、我々を打つべき者と認識したということだ。

『アスランは・・・・・・つ権利なんてな・・・・アークエンジェ・・・・フリーダムを・・・・決して許しません!!!』

画面上には、必死に訴える少女の映像。みながその映像を凝視する。
「しかし・・・こんな表情されると・・・。なんだか、ホントにこの子が”彼”を守りたいって気持ちで演説してるような気がしますね」
ノイマンの”彼”という言葉に、カガリはびくっと反応する。
「ちょっと!やめなさい、こんなところで・・」
マリューが少し苛立った声で諫める。
キラは好きで”彼”・・・アスランを打ったのではない。 それぐらい、解っているはずではないか。 そう言いたげなクルーの視線が、一斉にノイマンを睨む。
「いや・・・しかし・・・」
涙を流しながら必死に訴える姿は、”ラクス・クライン”でないことをはっきり示していた。
が、確かに、この子は・・・・政治云々を意識して演説を行っているとは思えない。 ノイマンだけでなく他のクルーも、一人の少女が、純粋に大切な人を打たれた悲しみを吐露しているような、そのような印象を覚えたのだ。
「いえ、いいんです。マリューさん」
キラは、優しく微笑んでそう答える。
そして、また画面に目を戻す。
もう何回目かの繰り返しになる、その”ラクス・クライン”の映像。 キラは、このブリッジにいる誰よりも疑いの色を強くした表情で、こう言った。
「でも・・・・こうやって、”ラクス・クライン”に演説させたのも・・・。きっとデュランダル議長、なんですよね」
その一言にその場にいた人間すべてが、一斉にキラを凝視する。
「ラクスの名を語って、こうやってアスランを被害者にすることで、僕たちを打つ正当な理由を作らせたんじゃないでしょうか」
クルー達は、うつむく。
確かに、この画面の中にいる”ラクス・クライン”は偽者である。
涙を流そうが、必死に訴えようが相手はラクスのコピーだ。 コピー用に用意された人間なら、このような演技はお手の物だろう。 そして・・・・”臨時”演説と言っているが・・・実は前々から仕組まれていた物だとしたら・・・・。 そして、そのコピーのお芝居のおかげで我々が打たれることになったら・・・。
たまらない。
我々は、戦争を止めるために戦っているのに。
クルー達は先ほどよりも、憎しみをこめた目で画面の中の”ラクス・クライン”を睨んだ。
しかし・・・ただ一人、カガリだけはうつむいていた。 キラは、そんなカガリが心配になった。

カガリは・・・・とても苦しんでる。
こんなにカガリががんばっているのに、政治の場でも戦場でも、彼女の言葉は届かない。
そう・・・・・・アスランにも。
彼はカガリが悪いと言った。
自分は僕やラクス・・・カガリにさえ、何も言わずザフトに戻っていたのに・・・・。

「とにかく・・・このままここにとどまっているわけにもいかないわね」
『ああ・・・』
艦長のマリューと、宇宙にいるバルトフェルドはそう言って会話を続けるものの、特にいい策も浮かばず途方にくれた。


「マリューさん、僕はちょっと・・・・ある人に会いたいんです・・・」


「「「「え?」」」」
みなが驚きの表情でキラを見る。

「え・・・キラ君・・・・会いたい人って・・・・?」
驚いたマリューがキラに質問する。
「僕は、数日前の戦闘の映像・・・この映像をプラントに流した人物は、おそらくまだこの近く・・・ダータネルスあたりにいると思うんです」
「・・・・何を根拠に?」
疑いの目をむけたまま、マリューはキラに問う。
「僕が思うに・・・先日の戦闘、確かに僕たちは介入しました。 でも、それを予告して行った訳じゃないんです。 つまり、地球軍にしてもザフトにしても、僕たちの介入は予想はできたかもしれないけれど、確実じゃなかったはずです」
「それはそうだけど・・・それとなんの関係が・・・」
「つまり、映像を撮影したのは地球軍でもザフトでもオーブ軍でもない第三者が撮影したことになります」
「・・・・なるほど・・・」
『この角度からの映像じゃ、戦場から撮ったとは思えん。戦争おっ始めようっつうのに、わざわざ来るかどうかも解らないヤツらの撮影準備なんて・・・どの軍でもそんなバカはしない』
バルトフェルドも同意する。
「では第三者というと・・・」
マリューの質問に、こんどはキラが答える。
「フリーのカメラマンや地球軍、オーブを憎いと思っている報道関係者。あるいは、ザラ派・・・・」

「フリーのカメラマンって・・・・じゃあ・・・!!」



「ええ。ミリアリアに、もう一回会ってみます。彼女なら、何か知っているかもしれません」


そう、カガリが泣いている。
言葉が届かなくて。
ラクスは空でがんばっている。
偽者に名前と顔を利用されながら。
だから、僕ひとりでただのうのうとしている訳にもいかない。
2人は、僕が守る。



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