6. カシャ。カシャ。 シャッターの音が心地よく耳に入ってくる。 真っ青な青空を仰いで、ミリアリアはふと、構えていたカメラを下げる。 そう、こんな空を、風景を撮りたかった・・・ずっと。 戦場ではなく、偽善の場でもなく、こんなたった一つも偽りなんて無い世界を。 戦後、ミリアリアはフリーのカメラマンになった。 2年前・・・あの時、もしへリオポリスにザフトが侵入して来なかったら、今自分はカメラを握っていなかっただろう、と思う。 そう、戦後、ミリアリアは一人、自分と向き合った。 お母さん、お父さん、サイやキラやマリューさん・・・・・フレイに・・・トール。そして、ディアッカ。 地球軍に入る前から大切だった人、そして入った後大切だと気づいた人、そして、戦場で出会って大切だと思った人。 死ななければならない人間なんていない、そう信じたい、今でも。 でも・・・本当にそうなのか、ずっと考えても、わからない。 なんでトールが死ななければならなかったのか。 なぜフレイが死ななければならなかったのか。 なぜ私たちは、軍のために死ななければならない運命だったのか。 でも。それでも。 自分は何かできるかもしれない。 トールのように戦場で死ぬ人を、そして自分のように恋人を亡くす人を、1人でも多く出さないために。 軍に入る事だけが、兵士として武器を取り国のために命を捧げるだけが、人を救う手段じゃない。 自分は2年前、それを痛烈に感じた。 アークエンジェルのなかで、通信官としてできる限りのことはした。 必死に、戦場で戦った。 ・・・・・・でも、トールのスカイグラスパーとキラのストライクのシグナルがロストしたとき、自分は何をした。 何ができた。 ・・・何も、できはしなかった。 ただ自分の部屋で泣くだけだった。 例え武器を手に取っていなくても、自分は戦場で、第一線で、戦艦のなかで”地球軍の二等兵”として戦っていたのに。 いろいろ悩んで、自分を見つめ直して、・・・・そして、最後に行き着いたのが”フリーのカメラマン”だった。 風景でも、人でもいい。 事実を写すカメラマンになろうと思った。 自分のような人を出さないために、できること。 そう考えて、振り返りたくなかった戦場での経験を、必死に思い出した。 そして・・・真っ先に思い出したのは、”ユニウスセブン”だった。 水を補給するために立ち寄った”ユニウスセブン”。 ニュースとかで、プラントに核攻撃が行われて、すっごい数のコーディネーターが死んだということは知ってた。 でも・・・私たちナチュラルがプラントにこんな酷いことを行ったのは、仕方ないことだと思っていた。 あっちがへんなもの地球に落としてきた、とニュースのアナウンサーが言ってたから。 でもそうじゃない。 いくらあっちから仕掛けた事といっても、あんなの・・・・。 2年前のあの時見た若い女性と、その人に大事そうに抱えられていた赤ちゃんの・・・死体。 2年たった今でも、あの2人の姿が鮮やかによみがえってくる。 そして今まで、その事実を知らなかった自分が、自分自身が恐い。 あのままユニウスセブンに立ち寄ることがなく、あの・・・女性の死体を見ていなかったら、自分はどうしているのか。 今も、地球軍にいるかもしれない。 ディアッカを、ほんとに殺してたかもしれない。 もっとコーディネーターを憎んでたかもしれない。 ならば・・・。 知る必要がある。こんな悲惨な事は繰り返さないために。 事実をありのままに写し、偏った考えに浸食されている人達にありのままを伝えたい。 そう、知ることは、悲惨なことを繰り返さないことに、繋がる。 私の目でみたありのままを伝えたい。 そして、カメラマンになった。 どこにも属さない、写す内容を指示されない、自分で伝えたいと思った事を写すカメラマンに、なりたいと。 そしてこの2年間、少しはありのままの事実を伝える事ができていると思っていた。 自分は少しだけでもいい、人を救っているのだと。 これで、少しでも戦争を止めることができていたのだと。 2年間ずっと、そう思いたかったのかもしれない。 だが・・・。 また戦争は繰り返された。 自分の2年間は何の意味があったのか。 フレイの死は、トールの、死には、何の意味があったのか。 そう思わずにはいられない。 そして、つい先日あった戦闘、その後の情報の漏洩・・・・。 あの時戦場を見ていた自分だからこそ思う。 何か、何か大きなモノが、私たちの、戦場の裏にいる。 その者達は、意図的に情報をプラントに流したのだろう。 何を考え、何を恨んでいるのかは解らないが、なにか大きな黒い力が私たちが嘆き苦しんでいる姿を、上から見下ろして笑っている。 そして・・・そう、先日。 戦場でシャッターを切ろうとして、気づいた。 2年前、自分もトールも乗っていたあの船が戦っている。 しかも・・・・戦場で介入。 どうして。 始めに思ったのはそれだった。 なんで・・・・なんでまたアークエンジェルが戦うのよ!? なんでフリーダムとストライクルージュが当たり前のようにそこにいるのよ!? そして、ふと頭に浮かんだのは昨日のキラの言っていたこと。 『打ちたくない・・・打たせないで』 なんでよ、キラ!!カガリ!!! 「ミリアリア!」 「・・・・・キラ」 そして戦闘のあった数日後、キラから連絡が入った。 話したいことがある、と。 「・・・・つまり、プラント側へ情報を漏らしたのが何者か、ということ?」 「そう。僕は、おそらくザフトでも、地球軍でもオーブ軍でもない誰かがプラントへ流したんだと思う。この映像を見て」 待ち合わせの場所から近くのカフェで、キラは自分のパソコンをミリアリアに見せながら言った。 そこには、フリーダムがセイバー・・・あの、アスラン・ザラの乗っていたいた機体を打っている映像。 「キラ・・・・っちょ、これ・・・・」 「何かわかった?」 ミリアリアは、一瞬驚いた。 キラは・・・自分の大切な人を打っても何も感じてないの? だって・・・キラが2年前、あんなに苦しんでたのは、親友だったアスラン・ザラを打ちたくなかったからよね!? そう教えてくれたよね、キラ? なのに・・・・なんでこんなに普通に、自分が親友を打った映像を、他人の私に、見せるの? 「・・・どうしたの?ミリィ?」 なんでもないように、2年前のように、優しく微笑んでいる。 そのときミリアリアは、キラが全く別人のように思えた。 その笑顔も、声も・・・2年前とちっとも変わらないのに。 「・・・なんでもない」 いや、そんなハズはない。 キラだって、きっと感情を殺しているんだ。 打ちたくなかったんだ。 ・・・・そう、信じたい。 無理矢理自分の感情を納得させ、ミリアリアはパソコンに視線を戻した。 「・・・確かに。この映像、この角度・・・おそらく、私たちフリーのカメラマンにまじって撮ったのね」 「そう・・・」 「私たちカメラマンは繋がりが命なの。特にフリーのカメラマンはね。何処で何時何がある、っていうのは仲間で教えあわないと。 専属なら勝手に会社や雇い主が情報を提供してくれるけど、フリーだと全く情報が入ってこないから」 「じゃあ、・・・」 「うん。私たちフリーの中にいるのかもしれないわ。探ってみる」 「ありがとう、ミリィ。でも、無茶はしないでね」 「うん。キラも、がんばって」 そう言って別れると思っていたのに、キラはなかなか立ち去ろうとしない。 「・・どうしたの?キラ」 2年前と同じように、ミリアリアはキラに尋ねた。 キラの口から発せられた言葉は、ミリアリアを驚かすのに十分すぎるものだった。 「ミリアリア、アークエンジェルに、戻ってこない?」 「・・・・・どういうつもり、キラ」 「今、僕たちは先の大戦のようなことにしないために、アークエンジェルに乗ってる。マリューさんやバルトフェルドさん・・・。みんな戦ってる。カガリとラクスもがんばってる。ラクスとバルトフェルドさんは、今は宇宙にいるけど」 「・・・・・」 「トールの死を、無駄にしたくない」 「・・・・・キラ、」 「ミリアリアも、いっしょに戦おう」 「折角だけど・・・、私はもうアークエンジェルには乗らない」 「ミリィ・・・・」 「私は・・・確かにトールの死を無駄にはしたくない。フレイの死も。でも・・・でもね・・・・私は私のやり方で、がんばりたいの」 「・・・・・」 「確かに戦場で戦うことも、戦争を止めることに繋がるのかもしれない。 でも、私はそうじゃない、それだけじゃないと思うの。 力と力でぶつかり合うことだけが、戦争を止めることじゃないと思うの」 「じゃあ、何もしないの?」 「え・・・?」 「君は、その力があるのに何もしないで、ただ戦場を見てるの・・・? 僕たちが、カガリやラクスががんばってるのに、何もしないでただ見てるだけで、君はいいの?」 まるで自分が何もしていないかのように、たたみかけられる質問。目の前にいるのは本当にキラ、なんだろうか・・・? 少なくとも2年前、自分が知っているキラは、こんな質問の仕方なんて、しなかったはずなのに。 何が、キラをこう変えたの・・・・? 「そうじゃないの。キラ・・・。・・・・とにかく、私は戻れないの。折角だけど、ゴメンね、キラ」 「わかった。ミリィ、ありがとう」 「ううん。キラも、がんばって。今私に言えるのはこれだけ」 「うん、じゃあ」 「じゃあね」 そして、2人の会合は終わった。 最後にミリアリアが見たキラの笑顔は、2年前と全く変わらない笑顔だった。 しかしミリアリアには何故か、キラとは全く別人のような、そんな笑顔だと思ってしまった。 BACK TOP NEXT |