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7. ~intermedio.Ⅰ~




目の前に広がるのは真っ暗な闇。闇。闇。そして静寂だけ。 闇と静寂が支配する世界。


ここは何処だ。 何処だろうか。


辺りを見渡すが、闇と静寂だけが目に映るだけ。


ここは何処だろうか。
俺はこんなところにいる暇なんてないんだ。 俺は帰らないといけないんだ。 こんなところでのんびりしてる訳にはいかないんだ。 そうだ、帰らないと。



でも、何処に?



突然、視界が開ける。前触れもなく明るくなった視界に、ほんのわずかに顔をしかめる。 気づけば自分はパイロットスーツを着てコックピットに座っていた。 目の前には複雑な機械と、ウィンドウに映る鮮やかな海。
そうだ、思い出した。 俺は戦場で戦っていた。 そして。


次の瞬間、目の前のウィンドウには蒼い翼をもつ機体。 かつて良く見た機体。友の機体。
命を賭けて、平和を求めて必死に、自分と共に戦った友の機体。


何か聞こえる。 誰かが叫んでいる。


『・・・カガリは今泣いてるんだ!』


・・・・知ってるよそんな事。 いや、違う。 カガリはずっと泣いてた。一人で。 自分の声が届かなくて、想いが伝わらなくて。 ずっと、2年間泣き続けていたんだ。ちっぽけなその肩に、大きすぎるものを背負って。 側にいて、それが自分には痛いほどわかったのに。

俺は、彼女を慰めることしかできなかった。 ただ彼女の瞳から溢れる涙を払うことしかできなかった。 自分は彼女に救われたのに。 数え切れないくらい、彼女に救われたのに。 たくさんのものを、もらったのに。

こんなにも近くにいるのに。 自分は彼女を救うことは、できなかった。

『なら僕は、君を打つ!!』

また誰かが叫ぶ。 その誰かの声と、父の声が重なる。

『アスラン!!』


次の瞬間、自分の目に飛び込んできたのは、 自分の機体に向かってくる蒼い機体と、・・・・自分に銃口を向けている父の姿。 そしてガラガラと崩れていく、世界。


避けようとすれば、避けることができたのかもしれない。 蒼い機体の攻撃も、父の打った弾丸も。 でも体が動かなかった。 体が拒否した。 そして、何故か視界が曇った。

俺は、泣いていた。



何故だろうか。俺はなぜ避けられなかった。 最後まで信じていたからか。 キラが、父が自分を打つはずがないと。

・・・・ばかばかしい。


俺が、何もできないのを知っていたんだ。 父も・・・・キラも。


そうだ。 父に必要とされたかった。 キラに必要とされたかった。 こんな何もできない自分でも、必要としてくれる人を、ずっと求めていた。 だから必死に勉強したし、ザフトの訓練にも耐えてきた。 成績もトップに居続けた。 ”いらない”と、いわれるのが恐かった。 でも、何になったというのだろうか。 人1人止められない。 言葉がとどかない。 守れない。


でも、カガリは違った。 戦場であって、次第に惹かれていって。 能力なんてどうどもいい、自分を無条件に必要としてくれる人。 命をかけて守りたいと、愛しいと、想う人を。 カガリを、やっと見つけた。 見つけたのに。

『カガリは今泣いてるんだ!!』

また、声がする。




そうか。 俺はやっと見つけた大切な人を泣かせてしまったんだ。 守りたいと、救いたいと想った人を、俺は自分の手で傷つけてしまったんだ。 カガリが2年間泣いていたのは、俺のせいだったのか。

だからキラは、カガリを守った。 それだけのことだ。

俺を打ったのも、カガリを守るためだ。 俺は、彼女を守れないから。 泣かせるから。 傷つけるから。


俺はいつも非力だ。




でも、俺には帰りたい場所があった。 必要としてくれる人がいた。


また闇が消え失せ、目の前に3人の人間が現れた。 その3人は、仲良く笑っている。


「母上・・・・・父上・・・・・」


そう、真っ先に浮かんだ帰りたい場所。 それは、幼い日の自分。

母と父の間に、ちょこんと座っている幼い日の自分。 母はいつも笑顔を絶やさない人だった。 父も、母を見つめるときは、なぜか優しく見えた。 いつも厳しい父が、ふと見せる優しい表情が、大好きだった。

でも、2人はもういない。 俺が守るべきはずだったのに。 もう、失ってしまった。


目の前の3人が消え、次は5人が現れる。

「イザーク、ディアッカ・・・・」

2年前の自分がいる。なにやら口論している。 ムスッとして自分のほうにむかって怒鳴っているイザーク、やれやれといった顔でイザ-クを押さえるディアッカ。 そして・・・殴り合いになりそうなイザークとアスランを必死に止めようと、アスランの体を後ろから押さえるラスティ。イザークはディアッカが後ろから押さえている。 そして、イザークとアスランのあいだに入って2人を諫めている・・・・ニコル。


「ラスティ・・・ニコル・・・・・・・」



守れなかった。この場所も。




最後に現れたのは、4人。




写真を撮っているのだろうか。4人は微笑んでいる。 自分も、キラも、ラクスも、カガリも。

帰りたい場所、守りたかったもの。 なくして、なくして、殺して。

やっと見つけたと、守れたと思ったのに。 また、なくしてしまった。

おれが、なくした。 自分の手で。





ならば、俺には帰る場所を持つ資格はない。 また見つけたところで、失ってしまうから。

帰る場所なんていらない。 もう俺は帰る場所が3回もあった。 なら、これ以上何をのぞむ。

キラが、俺を打ってくれてよかった。 このままだと、いずれまた俺は、守りたい人を守れずに殺してしまう。 母や父、ラスティ、そして・・・ニコルのように。 キラやラクスや、カガリを殺してしまう。

帰る場所なんていらない。 俺は一人でいい。 一人で戦って戦って戦場で死ぬ。 そうすることで、失わずにすむのなら。 そうすることが、殺してしまった人に対する償いなら。
俺は一人でいいから。



だから・・・、どうか。
最後に手に入れた俺の帰りたかった場所を、キラを、ラクスを、・・・・カガリを、幸せにしてくれ。守ってくれ。
戦い、争い、そんな中から彼らを救って、守ってくれ。

誰でもいいから。
俺は守れない。
救えない。


誰でもいい。
誰でもいいから。
どうか。
彼らを幸せにして。




そこに俺は、いなくていいから。






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