8.


「・・・わかったわ。2人を独房へ監禁して。・・・ええ。ザフトレッドの服は没収して。ええ。今の2人に赤を着る資格はないわ」
タリアはジブラルタルの自分にあてられた部屋で、先ほどあった報告に応じていた。

地球軍のエクステンデットの脱走を企てた者がミネルバにいる。
しかもたった1機で地球軍の士官と交信をとり、勝手に艦を離れた。
医務室の専門医に危害を加え、一時は大混乱となった。
それを起こしたのは・・・・・・シンとレイ。

なんて事を。
確かにシンはあのエクステンデットの少女が入ってきた時から、何故か異様に少女のことを気にかけてはいたが、まさか・・・・勝手に逃がすとは。 そして、それを手伝ったレイの行動も理解ができない。 普段から冷静沈着、正しい判断を下すことができるレイが・・・。

軍規を侵した事はザフトにおける、いや軍人として最大の罪であると同時に、帰属する国家への最大の冒涜。良くて永久追放。最悪の場合は銃殺刑。
全く・・・・フリーダムとアークエンジェルの介入のおかげでハイネを失い、ルナマリアは先ほど意識を取り戻したが、腕の損傷からしてしばらくは復帰できないだろうし、アスランは・・・未だ意識が戻らない。 そんなボロボロの状態なのに、今シンとレイという最大の戦力を失うなど。

レイとシン。
2人のパイロットとしての能力は、なんだかんだいって素晴らしかった。特にシン。彼には、艦を何度も救われた。 仮に2人を失うとする。確かに代わりのパイロットが配属になるだろう。だがしかし戦時中の現在、他の艦も人手不足、特にパイロットの不足が深刻なこの情勢下において、”赤”が配属されるかどうかすらわからない。 どうしたらいい・・・。
いや、どうにかする。してみせる。

先ほどから降り出した雨は、どんどん激さを増していく。

もうしばらくしたら・・・先ほど意識が戻ったルナマリアの病室に、見舞いに行こう。
そう、しっかりしなければ。 彼らの命は、全て私の肩にかかっているのだから。
しばしタリアは、窓の外で激しく降り続ける雨を睨んでいた。




独房で、シンは一人、うつむいていた。
ステラ。
ステラを救いたかったのはホントだけど、地球軍の味方をしようとして逃がしたんじゃない。 艦長や医務室の人間はステラを人間として見ていなかった。 そんな人たちにとって、ステラを返すことはザフトに対する裏切りでしかないのか? いや自分のみならば、別にいいのだ。しかしそうではない。レイまで巻き込んでしまった。レイまで処罰されでもしたら。俺は、・・・これからレイに、どういう顔で会えばいい?
途方もない恐れを逡巡していた時だった。

「シン、起きてるか?」

隣の檻に入れられているレイが、声をかけてきた。
「・・・・うん。おきてるよ」
どうしたんだろう。いつも無口なレイが話しかけてくる。
・・・・・きっと怒っているんだ。
ステラを守るためとはいえ、レイを巻き込んだから。 謝らないと。
「レイ・・・あのさ、」

「シン、俺は別に迷惑とは思っていない」

「・・・・え、」
「俺は、あの子を助けたいと自分で思ったから、手伝っただけだ。お前のせいじゃない」
「・・・・でも」
「生きれるなら、生きたい。みなそうだろう」
「うん・・・・」
「だから、気にするな。お前は間違っていない」
レイの言葉が、自分の心のわだかまりにしみこんでくるようだった。
いつもレイは、とっさに冷静で正しい判断が下せる。 アカデミーのころからずっと、ずっと俺を助けてくれた。 レイがいなかったら自分はどうなっていたか・・・・。
シンにとって、レイは・・・友達だけど、いつも自分の気持ちを理解してくれる、かけがえのない”家族”だった。 ほっとしたところで、いきなり独房のドアが勢いよく開く。


「シン!!レイ!!!」


そこに立っていたのは、腕と頭に包帯を巻いた・・・・ルナマリアだった。 どうやら意識が戻ったらしい。 頭と腕に巻いた包帯が痛々しいが、いつもの彼女だ。
しかし、口調はいつものそれではなかった。

「あんた達、連合のエクステンデット逃がしたってホントなの!?」

言葉の中に少しの怒りが感じられるルナマリアの問いつめに、シンはムッとした。
それに・・・ステラを”連合のエクステンデット”というのも気に入らない。
ルナもステラを人間として見ていないのかよ。
ルナまで艦長や医師たちの肩を持つのかよ!?
「そうだ。それで独房に入れられた」
黙ったままのシンの代わりに、いつになく感情がこもっていない声でレイが答える。
「でも・・・なんで・・なんでっ!!なんでレイまでそんなことするのよ!?」
まるで自分たちが悪いことをしたようなルナマリアの口調に、シンはイライラして言った。
「なんだっていいだろ!!ルナには関係ない!」
ルナマリアが、ひどく驚いて口をつぐむ。
「ルナは知らないんだよ!!ステラは普通の子で、海が好きで・・・。すっごくいい子なんだ!!ルナはずっと打たれてから寝てたから、そんなのどうでもいいかもしれないけどね!!!」
「・・・シン、でも」
「家族や大切な人を失ったことがない者には、わからないだろう」
レイが素早く、そして冷たく言い放つ。
「あの子の苦しみも、失った者がいるからこそシンは救いたいと思った。俺はそれを手伝った。それだけだ」
その一言に拳を握り締めたルナマリアが顔を上げ、キッとシンとレイを睨んだ。
何かにぐっと耐えるように、大きな瞳に涙の膜を張らせながら。


「わたしは2人を責めてるんじゃないの・・・・。ただ、2人が心配だったの!!!」


シンは驚いた。 ルナが怪我してるのにこんな独房まで1人で来たのは、怒鳴ったのは・・・・俺たちを心配してたから・・・・?

「確かに2人は大切な人を失った事があるかもしれないけど・・・。 私は、戦場に出るまで失ったことがないかもしれないけど・・・!!! ハイネが死んで、アスランも・・・アスランも、あんな姿になって・・・!! それなのに・・・シンとレイがそんなことになるなんて・・・!!」

ルナマリアは、零れ落ちる涙をもはや拭ってはいなかった。 アカデミーの頃から常に共にいた彼女が初めて見せる痛々しいそれに、シンとレイは呆然とするより他なかった。


「もう失いたくないの!あんた達2人は、絶対失いたくないの!!」


一瞬の静寂が、暗い独房を包む。

「ルナマリア・・・・」
「ルナ、お、俺」
「もういい!!シンもレイも知らない!!」


騒然とそう言い渡し、ルナマリアは独房を飛び出していった。


再び、静寂が独房を包む。
ルナは俺たちを責めてたんじゃなかった。 それなのに・・・。

「レイ、」
「なんだ」


「もし俺たち死ぬことになったらさ、・・・・ルナに謝ってから死のうな」


ぽつりとこぼしたシンの言葉は、静寂の独房に消えていった。
答えてくれはしないだろうと予想していたのだが、
「・・・・・・わかった」
と、壁の向こうから小さな声がした。なんだかんだ言って、レイもすまないと思っていたらしい。 自分と同じ気持ちを友人が抱いていたことに、久しく感じていなかった安堵感を覚えた。
独房では、相変わらず静けさが漂っていた。



しかし、2人は翌朝解放させらることになる。
なぜ何も咎められなかったのかわからない。 それをレイに問えば、「議長は優しいお方だからな。わかってくれたんだろう」と言っていた。 今度会ったら、議長にお礼言わなきゃな、とシンは漠然とそう思った。

独房から帰ってきたミネルバの仲間たちの視線は、冷たかった。
ヨウラン、ヴイーノ、そしてメイリン。 3人とも2人の無事を喜んでくれたけど、どこかよそよそしかった。

ルナマリアを探したが、ミネルバの中にはいなかった。
ジブラルタルの軍の病院に会にいったが、受付で"ルナマリアは検査を受けている"と言われ、面会を断られた。 ぼんやりと、ルナはそんな大怪我してたのに俺たちの閉じこめられてた独房まで来たんだ、やっぱり謝らなきゃと、シンは思った。

アスランとの面会は、許可が下りなかった。
アスランさん、大丈夫、かな。 あの人なら、大丈夫と思う、けど・・・。
そう言えばずっと会ってないような気がする。
もし会えたら・・・また射撃の練習に付き合ってもらえるかな。


しかし、この願いは永遠に叶えられる事などないということに、この時のシンはまだ気づいていなかった。




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